家族を介護するケアラー、収束の見えないコロナ禍で苦境に

無償で家族を介護しているケアラーは、制度の網からこぼれやすく、さまざまな苦労を強いられています。

この3月に、埼玉県で全国初となるケアラー支援条例が成立したことは前進ですが、このコロナ禍によって、ケアラーの人たちもかつてない苦しい状況に身を置いています。

日本ケアラー連盟が実施した緊急アンケートの回答からは、その悲痛な声が浮かび上がってきています。


家庭の中の状況は見えにくい

収束の見えないコロナパニックは、さまざまな人の生活状況を困難なものに変えつつあります。飲食業やイベント業に携わる人や、休校が続く子どもの日中の過ごし方に苦慮する親たちはその代表ですが、最近ようやく注目されはじめた、ケアラーと呼ばれる人たちもまさにその中にあてはまります。

ケアラーとは、無償で家族を介護している人たちを指す言葉です。家庭の中の状況というのは、外からは見えにくく、このような人たちは制度的な支援の恩恵を受けにくい状況が長く続いてきました。そんななか、3月27日、埼玉県議会でこのケアラーを社会全体で支えるための「埼玉県ケアラー支援条例」が可決、成立しました。ケアラー支援を掲げた条例としては、全国初になります。

ケアラーには18歳未満も

この条例では、ケアラーを「高齢、身体上又は精神上の障害又は疾病等により援助を必要とする親族、友人その他の身近な人に対して、無償で介護、看護、日常生活上の世話その他の援助を提供する者をいう」と定義し、そのなかでも、18歳未満の者を「ヤングケアラー」と定義しています。

ケアラーの支援を目的に掲げる一般社団法人日本ケアラー連盟では、ケアラーの例をさらに具体的に紹介していて、そのなかには、「アルコール・薬物依存やひきこもりなどの家族をケアしている」「障害のある子どもの子育て・障害のある人の介護をしている」「障害や病気の家族の世話や介護をいつも気にかけている」などの人々が含まれています。

中でも18歳未満のヤングケアラーは、学業や進学・就職に深刻な影響を与えることが多いのにも関わらず、本人もどこに相談したらいいか分からず支援が届きにくい現状がありました。今回成立した「埼玉県ケアラー支援条例」では、県民や事業者がケアラーの支援の必要性についての理解を深め、必要な支援を行なうことを定めたもので、このような条例が全国に広まっていくことが求められています。

アンケートに寄せられた悲痛な声

今回のコロナ禍によって、多くの家庭が収入の現象や、外出自粛、休校の影響で家族が外に出られない状況に苦しんでいます。これはあらゆる家庭にあてはまりますが、なかでもケアラーに該当する人の家庭では、深刻な悪影響が進んでいることが懸念されています。一般社団法人日本ケアラー連盟では、3月21日から10日間、ウェブ上で「新型コロナウイルス感染拡大とケアラーに関する緊急アンケート」を実施。その結果を公開しました。

381名が回答したこのアンケートには10代から60代まで381名が回答。そのうち331名は、在宅で介護や看護をしている人たちです。関係を見ると、要介護者の子どもが最多の209名。次が実母の100名で、実父、配偶者、養母と続きます。

介護の状況の変化を尋ねた質問に対しては、「介護による自身の疲労、ストレスが増している」と答えた人が最多の138人。次は「特に変化なし」の112人ですが、これは全体の3割以下で、「ケアを必要とする子どもの学校が休校となり日中の介護・看護時間が増えた」「家族間の調整に苦労している」「不安で眠れない日が増えた」「ケアラー自身の通院ができず、体調管理が難しい」などが続いています。

さらに個別の回答を見ると、「遊びに行っていた公共施設がお休みの為、自宅のみで遊んでいる。退屈で体力が余る為夜寝る時間が2時間遅くなり看護者としてはヘトヘトです」「感染が怖くサービスを受けていない(リハビリ、訪問入浴等)、外出(定期外来受診等)もさせられない。その負担をすべて引き受けている」「ショートステイやデイサービスが利用できず、要介護者が家にいるので、自分自身のことや家事ができなくなった」「障害のある家族が外出規制で、家にこもりきりのため、本人のストレス、互いのストレスが増している」など深刻な声があがっていました。

新型コロナ感染の不安は介護者にも

アンケートではさらに、半分以上の人が、もしケアラーが新型コロナウイルスに感染した場合、代わりの人がいなかったり、どうしたらいいか分からない状態であることや、障害のある要介護者がもし感染して隔離・入院状態になったら、誰がケアをしてくれるのかと途方に暮れる人もいることが明らかになっています。もしものことを考えて代わりの人を探すことができている人は、34人、回答者のうちの9%に過ぎないという結果も出ています。

今後どのような支援が必要だと思いますか、という質問には、「マスク・消毒薬等の優先的な配布などをしてほしい」「緊急時の要介護者へのサービスや受け皿がほしい」「介護・福祉サービスが現状通り供給できるようにしてほしい」「ケアラーへの支援情報が欲しい」などの声があがっています。

前例のない非常時のなか、政治も行政も感染を食い止めることに必死で、マイノリティである障害者やケアラーのことまではなかなか対策が追いついていない現状があります。人と人が距離を保たなければならないというこの状況下において、マスクをしていない人や外出や営業の自粛に応じない人を非難するなど、さらに分断が加速するような空気すらありますが、いま社会に必要なのは、分断ではなく、立場の異なる人や苦境にある人も含めたすべての人を理解し、支え合う共生の姿勢であると言えるでしょう。

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