おとぼけビ〜バ〜【後編】- 考えても考えてもライブより面白いことが思いつかない!

女性代表として代弁したい、共感してほしい気持ちはない

──「呼ばんといて喪女」に続いて、去年からライブで披露されていた新曲のうち2曲「アイドンビリーブマイ母性」と「ジジイis waiting for my reacrion」がリリースされています。個人的な経験を反映させて書いた曲だと思いますが、海外でも「現代社会で抑圧されている女性の心情」を表明した普遍的なテーマとして捉えられているように見えます。特にフェミニズム的な思想を意識しているわけではないとしても、自身の気持ちを歌にすると、そうした文脈で語られがちなことに関して、現在ではどう感じていますか?

あっこりんりん:今では好きなように取ってくれと思ってます。私も何も知らんかった頃、フェミニズムってうるさい女っていうイメージがあって、フェミニストって呼ばれるのが嫌でした。でも海外に出てフェミニズムのことをよく聞かれて、勉強するようになり、フェミニズムっていいことなんだと理解しました。

私が個人的に唄ったことでも、ああ確かにこれは日本にこういう風潮があるからだったんだなとか、私だけじゃなくてみんなもこんな思いしてるんだなとか後で気づいたりもしました。だから今ではフェミニストと呼ばれるのは気にしてないです。これからも私は自分の個人的な気持ちで唄っていくつもりですし、女性代表として代弁したいとか共感してほしいという気持ちで唄うことはないです。でももし私の曲で誰かが勇気づけられたり、共感してくれるのならそれは嬉しいことです。実際、「アイドンビリーブマイ母性」は今までずっと思ってたことですがなかなか勇気が出なくて、いざ曲にしてみたら共感してくれる女の子がたくさんいて嬉しかったです。私自身がずっと戦っていることですが、負の感情を持つことや、怒ることは悪いことではないと伝えたい気持ちは芽生えているかもしれないです。

──英語の文法・発音などに関して、たとえ不正確でも構わないという姿勢を示す一方で、きちんと英語の歌詞対訳をつけていますが、欧米に限らず全世界から反響を得ている中、自分たちの歌詞について、どこまで説明したいと考えていますか?

あっこりんりん:何についての曲かくらいは知ったほうがより曲を面白く感じられるんじゃないかと思って英訳は出してます。海外でのライブでも曲名を言った時と、言わない時で全然反応が違います。文法や発音に対して気にしてないのは語呂とか、声に出して気持ちいいかなど音を最優先しているからです。

ライブ中に意味を伝えたいとかは思ってなくて、なんとなく耳に残ることを考えてます。だから発音が難しい単語(カタカナ英語にするのが難しい単語)とかは使いません。めっちゃ発音小馬鹿にされてますけど、「アイヘイトユー」とかわかりやすいですよね。

ジジイの薦めてくるバンド一覧が特に見物のMV

──「ジジイ〜」のビデオクリップは、日本語バージョン/英語バージョンとも(※音源は同じ)に、ジジイから送られてくるメッセージの内容がリアルだと評判ですね。その他にも、様々な場所・様々な扮装で撮影されていて、とても楽しいものになっています。このビデオはどのようにして出来上がったのか、制作プロセスを教えてください。

あっこりんりん:このMVも「Don't light my fire」の監督のONIONSKINに頼んだのですが、まず曲を聴いてもらって、「女子高生になってもらいます!」という返事が来ました。えーっ!めっちゃ叩かれんじゃねと思ったのですが、内容を聞いてめっちゃ気に入りました。女子高生の衣装集めと着替えが一番時間かかったくらいで、あとは本当にあのMVの通りサクっと撮影しただけです。半日くらいで撮り終わりました。「Don't light my fire」のYouTubeのコメント欄からジジイっぽいクソリプを探すのが一番大変でした。ONIONSKINさんの尖ったセンスが共感しまくれるし、私たちのスタンスを説明せずとも理解してくれているのがアイデアから伝わるので信頼しています。MVでの変顔のシーンでも、「今の顔はあんまり面白くないっすね」とはっきり言ってくれるので(笑)。

よよよしえ:私たち(特にあっことよしえ)はかなり口うるさいタイプで、絵コンテとか来たら「いや〜、ここってどうなんすかね〜」みたいなことをグチグチ言うタイプなのですが(笑)、ONIONSKIN氏の案には一度もそういったことを言ったことがないくらい、とりあえず面白いand かっこいいand わかりやすいんですね。ほんとにセンスの塊です。

ONIONSKIN氏を紹介してくれたのが長州ちからさんという方なのですが、高円寺でBar長州ちからというのをやってまして、そこのつながりで紹介していただいたのがきっかけです。ジジイの薦めてくるバンド一覧は特に見物だと思うのですが(私も相当気に入っています)、あの案もONIONSKINさん一人で作成しています(笑)。ジジイが薦めてきそうなニュアンスを完全に把握しているのがほんとに圧巻というかもう爆笑しました。英語ver.に関してはBar長州ちからでいつもお世話になっているお客さんに翻訳作業をしていただき、最終チェックをdamnably(私たちの所属するイギリスのインディレーベル)にお願いしました。Bar長州ちからチームの協力もあり、かなりスムーズに作成が進んだMVでした。

──その他にも「Why」、「あなたのポストに焼き鳥を入れたのは私です」、「穴兄弟で鍋パーティ」、「あなたとの恋、金にしてJASRAC」などの新曲に関して、レコーディングが着々と進められているようです。次のアルバムも含め、これからのリリース構想について聞かせてもらえますか?ライブ活動が制限されてきていますので、そのぶんレコーディングされた新曲を発表していくことになるかと思うのですが、ストリーミングやYouTube動画にどんどん出してしまうのでは、少しもったいないような気もしています。

あっこりんりん:当初の予定では、4月は私の手術で唄えないし、5月からまたしばらくは海外ツアーでレコーディングができないので、できてる曲からどんどん録ってしまおうという感じでした。まあ基本は大人の事情でアルバムで出さないといけないので、ちゃんとリリースするにはまだめちゃくちゃ曲を増やさないといけないです。MVがあればみんな見てくれるので撮影する時間があればサブスク限定でシングル・リリースも全然いいかなと思っていますが、今はMV撮影の目途も立っていないので…。「アイドンビリーブマイ母性」もお気に入りの曲なのですが、MVを撮る時間がなかったのであんまりみんな聴いてくれてなくて悲しいですね。ジャケだけでも豪華に!と念願の中川ホメオパシー先生に描いてもらいました。いつかMVも撮りたいです。

日本ではYouTubeに出してしまうと売れないのでもったいぶりますが、海外ではどんどん無料でプロモーションしろ!(YouTubeで聴けても気に入ればちゃんと買ってくれる)という文化なので、そちらにあまり抵抗はなくなりました。

間合いや抑揚はおとぼけビ〜バ〜の核となるもの

──レコーディングの様子をインスタグラムのストーリーを通じて拝見しました。印象深かったことの一つは、ボーカル/コーラス録りに関して、単に音程やリズム感といった要素だけでなく、間合いとか抑揚、さらに声色といった点をものすごく細かく考え詰めて録音を進めていたところです。ほとんど「演技の演出」に近いものを感じたりもするのですが、こうしたボーカル表現へのこだわりは、どのようにして極められてきたものなのでしょうか?

あっこりんりん:単純に私の頭の中にイメージがあって、私が気持ちいいかどうかで決めているので自分でもよくわからないです。ただイメージ通りやってもらってもなんか違うってなったり、たまたまやってもらったことがドンピシャだったりするのでバンドって面白いなと思います。でもほんまに演技の演出とか言われるほどじゃないし、恐れ多いです。メンバーでQUEENの『ボヘミアン・ラプソディ』爆音上映会を観に行ったのですが、レコーディングのシーンでコーラスを何度も録り直してるシーンを見て、「あ、全然甘かったわ、妥協せんとこ」ってなりました(笑)。間合いとか抑揚はおとぼけビ〜バ〜の核となるもので、曲作りもあんな感じで要求しています。

──「穴兄弟で鍋パーティ」は、どんな経験から考えついた曲なのか、さしつかえなければ話していただけますか。

あっこりんりん:揉め事が起こるかもしれないのでやめておきます!

──では、ポストに焼き鳥を入れるという内容は、どのようにして思い浮かんだのでしょう?

あっこりんりん:どこかの層をターゲットにしてる、ウケ狙ってる曲ってちょっとわかるんで、そういう曲をたぶん聴いたんやと思うんですよね、その時。誰かは忘れました。ほんでそんなんがええなら私も作ってやろうって思って、「I'm sorry oneday, your postbox, throw into YAKITORI, it's me」(あなたのポストに焼き鳥を入れたのは私です)がパッと思いついたんです。なんか変人ぶってウケ狙ってる感キモいし、海外の人が知ってる日本の定番の食べ物(スキヤキ、スシとか)入れるとかムカつくなあって思って。だからこの曲は特に意味はないです。

──「あなたとの恋、金にしてJASRAC」と唄ってますが、おとぼけビ〜バ〜の楽曲はJASRACに登録申請してあるのですか?

あっこりんりん:今してる最中です!いろいろ忙しくて登録申請が進まなかったりやり直したりしてJASRACのことよく調べたりしてたので、新しい言葉覚えて言いたいだけで「あなたとの恋、歌にしてJASRAC」を作りました。

自分たちがおもろいよねーと思ったら何でもあり

──こちらで確認した限りでは、他に「パードゥン」、「サラダとりわけませんことよ」、「ショッピング」といった新曲が出来上がってきているようです。前回のインタビューで「他のバンドの5倍は手間をかけて作っている」と話していましたが、にもかかわらず、そのプロセスがここに来て加速している実感はありますか?

あっこりんりん:かほちゃんがドラムになってできることも増え、私のアイデアが出るのが早くなった、メンバーとの付き合いが長くなるにつれ理解が早くなった、というのは少しありますが、作ってる手間は今までよりそんなに変わらないです。いったん仮で基本だけ仕上げてほっといて他の曲やりだして、また前の曲練り直すっていうのも多いです。この中では「サラダ」と「ショッピング」はまだ未完成です。ライブで実際にやって、その時の感触で展開変えたりとか徐々に作ってます。いま実践ができないのが厳しいところですね。

──新曲の多くは、『YAMETATTA TOUR』ですでに披露されていますが、海外のオーディエンスからの反応はいかがでしたか?

あっこりんりん:どの曲にどういう反応があったかまではあんまり覚えてないですが、新曲だから盛り上がらないということはなかったです。全部盛り上がってました。

──つい先日インスタで公開されたスタジオの様子では、「Why」にピアノを重ねる試みが見られました。これまでのバンド・フォーマットにとらわれないアレンジへの興味が拡大しているのではないかと感じられましたが、現在は新たな創作意欲がどんどん湧いてきているような状態にあると言っていいのでしょうか。今後どんなことを試してみたいと思っていますか?

あっこりんりん:ジャンルやイメージとか問わず、やったら面白いんじゃない?ということは何でもやってみたいなという気持ちはあります。こんなのおとぼけビ〜バ〜じゃない!と周りに言われたとて、私たちがおもろいよねーと思ったら何でも。「Why」はレコーディングでミックスを聴いてて、これピアノ入れたらいいんじゃね?ひろちゃんピアノ弾けたやんな、よろしく!えっ、かほちゃんも弾けるん?2人で弾くのってなんやっけ?連弾!よろしく!ってな感じで。これからいろいろ弾いてみてもらうつもりです。ごめんね。

ひろちゃん:あ、ピアノ入れたいんや!あ、私、弾くんや!そっか!って感じでしたね(笑)。あっこちゃんのこういう急な発想は面白くてとても好きなんですが、やっぱり内心焦ったりはしてます(笑)。

かほキッス:ピアノを入れると聞いた時は、すごくいい!と思いました。どんなアレンジになるかはまだまだこれからなのですが、アホっぽい感じを出したいってあっこさんが言うてたような…。「Why」のドラムは、BPM210から216で約1分半、シングルストロークで16分音符をひたすら叩き込むというわりと集中力がいるものなので、叩く側としてはこれから入ってくるアホなピアノ(?)とのマッチングもかなり楽しみです!

メンバーという味方がいることを前よりも実感

──さて、世界規模でコロナウイルスの問題が起きたことで、予定されていた『SXSW』、さらに東京での凱旋公演2本が中止となってしまいました。『YAMETATTA TOUR』を皮切りに、今年は一気におとぼけビ〜バ〜が爆発することになると確信していただけに、ちょっと出足をくじかれた感じもあります。それでも、先日は早くもライブ配信を実現させ、世界中から絶賛のコメントを浴びていましたね。現状では、まだ不透明なところも大きいとは思いますが、当面の活動計画に関して、どのようなヴィジョンを持っているか可能な範囲で教えてください。

あっこりんりん:想定外のことが起きすぎて、悔しいし、これから生活もバンドもどうなってしまうんだろうという不安はいっぱいです。でもおとぼけビ〜バ〜で本気でやっていこうとみんなで決意した後のこの状況なので、メンバーという味方がいるということが前よりも実感できていて、逆に今だからこそ、みんなで絶対乗り越えるぞ!というパワーがあるのも事実です。今は不透明すぎるし、練習もいつ再開していいのかわからないし、会ってできることはすべて目途がつかないですね。考えても考えてもライブより面白いことは思いつかないですが、とにかく今は自分たちの元気な姿を見せながら、面白い企画、イケてる課金アイテムを考えたり、私たちにはめっちゃキツいですがZOOMでの曲作りも視野に入れてます。いろんなことをインプットしたり、曲を焦らずに考えられる時間だとポジティブに捉えて頑張ります。

よよよしえ:コロナ以降、今までできなかったことをやれたり、新しい発見がありました。特にライブ配信は今の時期だからこそ求められているという実感もありましたし、このタイミングだったからこそスピーディーに実行できたんじゃないかと思っています。コロナ以降、私個人の実感としては今だからできることっていうのがどんどんあって、個人的には充実していると感じることが多かったです。一方で音楽制作に関しては、今までスタジオで4人で作っていくスタイルだったので、1カ月後、さらに自粛が続くと…ということを考えると不安はあるのですが、結成して10年間で今までもいろんなことはあって乗り越えてきているので、そんなに不安だけが心を占めている状態ではないです。これまでの経験と知恵で乗り切れたらなと思っております。とにかく今はコロナの収束を願って、またみんなが自由に音楽を楽しめる環境が戻ってきたらいいなと願うばかりです。

ひろちゃん:本当に悔しいです。やっぱりライブで、近くで感じてもらうことが一番大事だと思ってます。今この状況で私たちにできることの一つとして、最近note(お布施制公開交換日記)を始めました。今まで私たちが話したことのないようなこともいっぱいで楽しく毎日更新しています。ぜひ見て欲しいです。ライブ配信に関してもたくさんの方に見ていただき、やっぱり多くの方がライブが生活の一部なんやな、と改めて感じました。一日も早く生でお届けできることを祈ってます。

かほキッス:コロナの影響で集まる活動ができずにいますが、おとぼけビ〜バ〜のおもしろ企画がいろいろとあるのでそれに向けて日々動いています!! 楽しみにお待ちください!!

あと、つい先日オンラインで楽しんでもらうためにInstagramでおとぼけビ〜バ〜のメイクフィルターを公開しました。世界中からおとビ〜メイクの写真が送られてきているのですが、かなり面白い写真ばっかりなのでぜひおとぼけビ〜バ〜のSNSをチェックしていただきたいと思います。もし撮ったら@otobokebeaverのタグ付けをして私たちに見せてくださいね!!

本当に大変な状況ですが、私も家でできるトレーニングや、興味のあることは積極的にやりつつ過ごしています。またライブができる日までみんなも元気でいて欲しいです!

「アイドンビリーブマイ母性」

「ジジイis waiting for my reacrion」(英語版)

「ジジイis waiting for my reacrion」(日本語版)

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