「首折りトンネル」 高輪ゲートウェイ駅開業でまたひとつの“心霊スポット”が消えた… 都市開発が街を画一的にする|Mr.tsubaking

都市開発によって、古き良き風景が失われるのは産業革命以降のならわしです。しかし、現代の都市開発はグローバルの名の下に、あらゆる街を同じような風景にしていくとてもつまらないもの。私の好きな珍スポットのような「それ、よく会議で通ったな」といった風景は次々となくなっていきます。

今回は、この4月に都市開発によって、ひとつの珍スポットがなくなった話です。

JR山手線の新駅である高輪ゲートウェイ駅と田町駅の間に「提灯殺し」だとか「首折りのトンネル」という、心霊スポットのようでなんとも不気味な名前の場所がありました。

その場所は、山手線の線路の下をくぐるトンネル。人も車も通れるのですが、その桁下の高さが異様に低いのです。通過車両の制限高はたったの1.5m。あまりの低さに、タクシーの提灯がぶつかって壊れるという噂がたったり、成人男性が歩くには首を曲げないといけないことから、そんな通称になったのです。

正式名称を「高輪橋架道橋」といって、明治時代に水路として整備されその後、人や車が通れる道路になりました。天井までの高さは一番低い場所で1.6mあまり。当時の日本人男性の平均身長は現在より10センチ以上低かったために難なく通れたといいます。

身長184cmの筆者では、ご覧の通りの状態。首だけでなく腰から曲げないと通ることができません。しかも、この低い天井が長さ100mあまり続くのでかがんだまま歩いて抜けると、腰への負担がかなりのものになります。

また、この狭い空間を比較的はやいスピードで車が通過するので、エンジン音が大きく響き、恐怖さえ覚えるほど。タクシーの提灯殺しと言われていますが、セダン型のタクシーであれば難なく通過していきます。しかし、2016年ごろから都内で一気に増加した「ジャパンタクシー」は車高が高いので通行は不可。

この高輪橋架道橋は、珍スポットとしてだけでなく、とあるマニアにとっての聖地でもありました。それは「爆音浴」のマニアの方々。離陸したばかりの飛行機のがすぐ頭上を通過する場所などへ出向き、文字通り「爆音を浴びる」のが好きなマニアです。そうした方々にとってこのトンネルは天井が低い分、頭上を通る電車の車輪までほんの数十cmという超近距離なので、線路と車輪の擦れ合う金属音が耳をつんざくような爆音で降ってくるのです。

これだけ特異な場所でしたが、高輪ゲートウェイ駅の開業に伴い前日の4月12日に通行禁止となりました。こうした場所が次々と消え、のっぺらぼうな街並みに変わっていくのは寂しさが募るばかり。コロナ蔓延のこのご時世にはかないませんが、時間の許す限りこうした場所へ出かけて、体験していきたいものです。(Mr.tsubaking連載 『どうした!?ウォーカー』 第56回)

© TABLO