最新車両の新型コロナ対策は?

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大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

共同通信ワシントン支局次長

大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

共同通信ワシントン支局次長

1973年東京都生まれ。97年に入社し、松山支局、本社経済部、ニューヨーク支局、経済部次長などを経て2020年12月から現職。運輸と旅行、国際経済の分野を長く取材。日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」の審査員を務めている。

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(上)JR九州が3月14日に営業運転を始めたYC1系(左)とキハ66・67、(下)JR大村線を走る「シーサードライナー」から撮影した大村湾

 【汐留鉄道倶楽部】新型コロナウイルスの感染拡大という重苦しいトンネルからの出口を探し求めるかのように、先頭部の周囲を縁取った発光ダイオード(LED)が先を明るく照らす新型車両が3月14日に営業運転を始めた。JR九州が長崎県内に導入したディーゼルエンジンで発電し、モーターで走るハイブリッド方式を採用した最新車両YC1系だ。ステンレス製の2両編成で、4編成計8両が導入された。

 YC1系は、世界文化遺産の構成資産の大浦天主堂などを擁する国際観光都市・長崎市の玄関口である長崎駅と、「佐世保バーガー」が有名な佐世保市の佐世保駅を長崎線、大村線、佐世保線経由で結ぶ。途中の諫早、大村両市を含めて長崎県の人口上位4市をつなぐだけに、JR九州が新型車両を先駆けて投入した気合いがうかがえる。

 しかし、新型コロナの感染リスクが高いとされる「3密」(密閉・密集・密接)を避けるのにふさわしい設計になっているかは首をかしげたくなる。利用者が感染防止に留意すれば問題ないのだが、YC1系の導入で順次置き換える予定の国鉄時代の1974~75年に製造されたディーゼル車両キハ66・67の方が対策に向いているように思える。

 密閉を避けるには客室の窓を開けて換気するのが有効だが、YC1系の窓は原則として開閉できない。密閉を避けるためにJR九州が取った対策が、利用客が乗降時に扉の横にあるボタンを押して自分で扉を開ける「スマートドア」の“封印”だ。

 駅の停車中に全ての扉が開いていると車内の冷房や暖房の効果が弱まってしまうため、YC1系では一部の駅では利用者が乗り降りする場合に自分でボタンを押して開けてもらえる機能を設けた。ところが、新型コロナの感染防止には停車中にできるだけ扉を開けて車内の空気を入れ替えるのが有効だと判断し、導入当初はスマートドアの方式を使わずに乗務員が扉を開閉することになった。

 対照的に扉の横にある戸袋窓以外は客室の全ての窓を開閉できるため、換気しやすいのがキハ66・67だ。私は新型コロナ感染がまだ長崎県で確認されていなかった2月20日に長崎新聞政経懇話会に呼んでいただいて長崎市で講演し、翌21日に佐世保市でお話しした。佐世保へ移動した2月21日午前、長崎新聞社の方に「専用車でお送りします」とありがたい申し出をいただいたが、私はご厚意に深く感謝しつつも丁重にお断りした。

 というのも、長崎駅から佐世保駅まで快速「シーサイドライナー」に乗って風光明媚な大村湾を一望するのは楽しみの一つだったからだ。最大の喜びは大変お世話になった長崎新聞社の皆様、ご清聴いただき、貴重なご意見と熱心なご質問をいただいた出席者の皆様とお目にかかれたことで、とても有意義だった。本当にありがとうございました。

 そして、期待通りキハ66・67で運用されたシーサイドライナーの乗車体験も素晴らしかった。大村線の海沿いの区間を走った際、雲一つない空の下に広がる大村湾のコバルトブルー色は決して忘れられない美しさだった。

 周囲に乗客がいなかったため、窓を開けると爽快な海風が入ってくる。鉄道旅行賞「鉄旅オブザイヤー」の審査員の1人として、新型コロナの感染終息後には有名な史跡や名所が豊富な長崎県を訪れ、海の景色を満喫できる大村線に乗車することを強くお薦めしたい。

 「3密」の残る密集・密接を避けやすいという面でも、キハ66・67は威力を発揮する。現在設置されている座席の大部分を占めるのは方向を前後に変えられる転換クロスシートのため、他の乗客と向き合わずに座ることができるのだ。

 一方、YC1系は車両両側に座席が一列になったロングシートが中心のため、混雑時に立つ場合は座っている人と顔を近づけないように気を付けたほうが良さそうだ。1両に1カ所あるクロスシートは向かい合って座る固定式のため、密接しないように注意が必要だ。

(上)ロングシートが中心のYC1系の車内、(下)転換クロスシートが大部分を占めるキハ66・67の車内

 座席の材質についても、地元の鉄道愛好家団体「長崎きしゃ倶楽部」の吉村元志代表世話人は「見た目重視で白地を使っているが、汚れ防止のためコートされた生地を使っているので体が滑ってしまい、座りづらい」と課題を指摘する。

 JR九州幹部は「YC1系を順次増備し、キハ66・67を全て引退させ、廃車にする」と打ち明ける。だが、新型コロナで経営環境が悪化している中で、少なくとも当面は量産を見合わせ、キハ66・67を活用することで設備投資を抑えればいいのではないか。

 キハ66・67は「3密」を避けやすい利点に加え、新型コロナが収まった後に観光客を呼び込む“客寄せパンダ”になる強みも持つ。というのも、長崎県だけに残るキハ66・67は国鉄時代に造られたディーゼル車両として鉄道愛好家らに人気だからだ。

 キハ66・67の車内壁面に掲示していたJR九州佐世保車両センター(佐世保市)の車両紹介文には「世界に28両しかいない、貴重な車両です」「『愛車精神』宣言中」と記されていた。

 登場から約45年と老朽化した車両は「整備に手間が掛かり、故障も多い」(幹部)だけに、現場の入念な点検と整備に支えられて走り続けている。関係者が素晴らしい「愛車精神」を引き続き発揮し、千両役者と呼ぶべき「貴重な車両」が少しでも長く活躍できることを強く願っている。

 ☆大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)共同通信社福岡支社編集部次長。大村線の車窓は、武雄温泉(佐賀県武雄市)―長崎間で2022年度に暫定開業する九州新幹線長崎ルートの建設中の軌道や車両基地も見所の一つです。

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。