【球界と共に4】球界再編から復活したプロ野球 新型コロナで再び考える球界の在り方

ダイエー、ロッテ、オリックスで球団経営に携わった瀬戸山隆三氏【写真:本人提供】

2004年のプロ野球再編問題では古田から握手を拒否される場面で注目を浴びた瀬戸山氏

新型コロナウイルスの感染拡大で、当初3月20日に予定されていたプロ野球の公式戦開幕が延期となっている。苦しいのはファンだけでなく、球団側も経営に大きなダメージを受ける。Full-Countでは過去に球団首脳としてチーム運営に携わった経営陣に球団が考えるべきこと、ファンや周囲の人間が何ができるかを問う連載【球界と共に】で一緒に考えていきたい。第4回はダイエー球団代表、ロッテ球団社長、オリックス球団本部長などを歴任した瀬戸山隆三氏に聞いた。(前編)

新型コロナで球界の危機に直面しているが、2004年に起きた球界再編問題もプロ野球界の一つの転機だった。ストライキによるプロ野球公式戦の中止、そして当時、選手会会長を務めていた古田敦也の握手拒否……。あれから16年が経った。

「握手の部分がフォーカスされますね。でも、それは仕方ないことだった」

瀬戸山氏は当時を振り返る。

「当時、パ・リーグはセ・リーグに比べ大赤字。年30~40億円の赤字を親会社が負担していた。昔はそれでよかったがバブルが弾け、リーマンショックなど時代の流れで、それじゃダメだと。とにかくパ・リーグ各球団の赤字は相当なものでした。そこで考えたのが1リーグ制。巨人を巻き込むことが必要でした」

「交流戦の大義名分は“ファンがみたい試合”だが、本音は『放映権、チケットが売れる巨人と試合がやりたい』だった。だが、他のセ・リーグ球団は『自分のリーグでそれを作れば』と言って大反対でしたが、巨人の渡辺恒雄氏などを含めこちら側では1リーグ制でやることが8、9割決まっていた。だが、それにファン、選手からの大反対で上手くいかなかった。私は図らずも窓口になったけれども……」

結果的に1リーグ制は実現しなかった。それでもこの1年が転機となりパ・リーグの大逆襲が始まった。新球団・楽天、そして北海道で成功を収める日本ハムなど“実力だけ”と言われてきたパ・リーグに“人気”も加わり球界の勢力図は徐々に変わり始めた。

「交流戦こそ実現できたが、自分たちが考えて色々なことを実行した。その一つが球団と球場の一体運営です。今までは球場は儲かるが、球団は儲からないという現象が起こっていた。この2つのビジネスを一緒にやることが必要だった。複合ビジネスを成功させるために新しいことをやる、新しい発想を持った人たちを招き入れる。野球をビジネスとして成功させるために収入を増やす。楽天、ロッテ、ソフトバンク、オリックスなど。日本ハムも球団、球場一体運営を目指し札幌ドームを離れる決断をした」

瀬戸山氏はビジネス以外の面でもパ・リーグの変化が見られたという。あれから16年の月日が経ったが球界が再び盛り上がりを見せた理由は一体、何なのか。

「ドラフトでも一番いい選手を思い切って指名する傾向になってきた。進学、企業との関係で指名を見送るといったことを思い切って振り切った。スカウティングもそうですが全ての面で新しい視野を取り入れた、生き残るために必死でしたよ」

「これまでの財産はあるが、今後生き延びるために。2004年から“巨人至上主義”から徐々に変わっていった。チーム編成、ビジネス部門でも“巨人頼み”を抜け出して各々が考え、新しい試みを行ってきたことがパ・リーグが盛り上がった要因だと考えています」

無観客で行われる方向性で一致したプロ野球開幕、売り上げがなくなった場合は?

新型コロナウイルスにより無観客での開幕する方向性が各球団で一致。収益の面などを含めプロ野球界は再び一つの転機を迎える可能性がある。フロント、経営者側の視点としては「最悪のケース」を考える必要もある。

「今年1年は興行は厳しいだろう。ファンに向けて球界が一体となってコロナが収まった時には12月に入っても何か形を見せることができれば。来年にもう一度、プロ野球を盛り上げるため12球団の選手が集まっての試合(オールスターなど)。仮に終息が早まった場合は100試合、Wヘッダーなど。今、選手たちがSNSなどで発信していることは非常に素晴らしいことだと思う。こういったことを含め、知恵を絞って今できること、球団だったら売り上げをどうしていくかなど。また、プロ野球界として公共性を念頭に置きコロナ予防や感染拡大防止のために何かできないかなども考えないといけない」

収益の見込みなくなれば、選手たちの年俸にも大きく影響していく。今年の年俸は去年の評価を受けてのものだ。では、来年はどうなるのか。今年は試合ができなくなると球団経営の立場から考えると「やはり大ダメージ」と語る。

「このような事態は選手を含め、皆分かっていると思う。例えば年俸5000万円以上の選手は2割カットなど色々な案が出てくると思います。球団が存続できないと元も子もない、選手も同じ船に乗っているのだから多少の我慢は必要になってくる」

一つのサンプルとして球団の年間売り上げをシミュレーションしてくれた。仮に年間の売り上げが100億円あるとして、その中で試合がなくなった場合を考える。

1 年間シーズンシート 10億円
2 シーズンチケット 20億円
3 協賛試合、スポンサー、広告 40億円
4 スタジアムなど飲食 15億円
5 放映権料 10億円
6 ファンクラブ 5億円

「球団の経費としてはチームの移動費、宿泊費、そして選手が試合の成績で得るインセンティブは払わないといけない。その中で無観客ならプラスとなるチケット関連、スタジアム飲食はほぼゼロ、スポンサー、広告関連は半分以上はなくなることが想定される。こうなると当初、見込める売り上げのうち7、8割以上はなくなる可能性も出てきます。球団経営だけではこれは補うことは厳しい。親会社の助けも勿論必要になってくる」

今年はやはり我慢の1年は続きそうだ。そして選手たちにとっては来季の給料面も通常のシーズンとは違う認識が必要になっていくるという。

「球団は選手に向け来季の契約が減俸されることについて理解してもらわなければいけない。間違ってはいけないことは1つ。これは球界全体で考えてやらないと必ず選手から承諾は得られない。資金力のある親会社のチームだけは通常、その他のチームは給料削減となれば不平、不満は生まれるのは当たり前。12球団が統一してやっていかないといけない」

後編ではソフトバンクの王会長も提言する「16球団構想」、エクスパンションについて。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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