《コロナと向き合う (5)》苦境の人へ情報早く NPO法人「結いの家」理事長・尾崎多美子さん

 新型コロナウイルスの感染拡大で、雇い止めや収入減などが広がり、国民生活は厳しさを増している。シングルマザーなどの生活困窮世帯やドメスティックバイオレンス(DV)被害者を支援する群馬県沼田市のNPO法人「結いの家」理事長の尾崎多美子さんは、迅速で的確な情報伝達が欠かせないと指摘する。

―新型コロナの拡大は、生活困窮世帯にどのような影響を与えているか。
 支援している家庭は母子家庭が多い。母親のほとんどは非正規雇用で、1人で子どもの面倒を見ている。所得が低いためにパートを掛け持つ人もいるが、今は休業要請で勤めている企業が休みになり、仕事ができなくなっている。退職して失業保険をもらおうと思っても、辞めさせてもらえない人もいるようだ。経済的負担が大きくなっている。

―「結いの家」の活動への影響は。
 塾に通えない子どものために無料学習塾を開いているが、この状況では開けない。図書券に励ましの言葉を書いた手紙を添え、利用している家庭に配布した。また、小中学校の休校により家庭で3食を用意しなくてはならない。月2回の子ども食堂も運営できないので、フードバンクを活用して食事の提供を検討している。

―一律の10万円給付をはじめ、経済的支援がより必要になってくる。
 10万円給付には課題がある。原則はまとめて家族分が世帯主に給付されるため、世帯主の暴力から逃れるために別の場所で暮らす人が受け取ることができるか。申請すれば、避難している場合でも受け取れるため、各自治体は早めに申請するよう呼び掛けているが、十分ではない。「居場所を知られずに受け取る方法はあるか」などと相談が相次いでいる。暴力から逃げ、子どもを育てている人のストレスは計り知れず、情報を集めている心の余裕はない。行政は、DV被害者にもしっかり情報が伝わるように対策を取るべきだ。

―感染拡大防止のための外出自粛などによるストレスに端を発したDVや離婚も取り沙汰されている。
 生活や暴力に苦しむ人はさらに増えるだろう。私が関わる親からの虐待被害者で、暴力から逃げてやっと都内で就職できた人がいたが、仕事を休んでくれと言われたようだ。助けてもらいたいが、家庭のことを話しづらい人は多い。貧困は負の連鎖を生む恐れがあり、官民一体で断ち切る必要がある。「結いの家」としても、相談に応じるだけでなく行政と一緒に支えていきたい。

 おざき・たみこ 2016年に結いの家を設立。中学や高校、大学で「デートDV防止プログラム」の講演を行っている。

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