観光大国フランスが見据える「ポストコロナ」の旅行スタイル

新型コロナウイルスによって世界中の観光産業が打撃を受けています。国連世界観光機関(UNWTO)によると、感染拡大を防ぐため、今年4月の時点で世界の96%で旅行規制措置が取られています。

新型コロナウイルス流行以前に話を戻すと、UNWTOによれば、2019年に世界の中でもっとも外国からの観光客を集めた国はフランスでした(2位以下はスペイン、米国、中国、イタリアと続く)。同年は8,900万人がフランスを訪れています。

各国で観光産業が立ち行かなくなっている今、世界でもっとも観光客を集めてきたフランスでは、ポスト新型コロナの見通しをどのように立てているのでしょうか。


当面は国内需要が中心になる

4月28日、フランスのフィリップ首相は5月11日以降に導入予定の、段階的な外出制限の緩和措置について概要を発表しました。

まず5月11日以降は100km以下の移動が解かれます。ただし10km以上や県をまたぐ移動は、特別な場合(家族の理由など)を除き、今まで通り移動のための証明書が必要となります。

パリ市内の公共交通網を担当するパリ交通公団(RATP)は、3~5割まで減らしていた運行頻度を通常の7割程度まで回復する予定です。ただし、都市間をつなぐ列車やフランス版新幹線であるTGVは現状からの増便はありません。

フランスの経済紙レゼコーによれば、フランスの観光産業の専門家たちは、新型コロナウイルスの感染拡大による影響は2022年まで続くだろうと考えています。そして部分的、段階的に観光への需要を回復させ、まずは国内での消費に依存していくと述べています。

フランスのルモワンヌ外務副大臣も、2022年の観光産業の規模は、黄色いベスト運動や大規模ストライキが起きたにもかかわらず好調だった2019年のレベルには、戻ることはないだろうと予想しています。

新型コロナウイルスの拡大防止の観点から、現時点においてEU域内各国の国境は閉じられていますが、ルモンワンヌ外務副大臣は近い将来、ヨーロッパ域内の顧客を国内の顧客として取り込んでいきたいと期待しています。

UNWTOによれば、2018年の全世界における旅行者の約半数(48%)はヨーロッパからの観光客でした。しかし世界の国際観光支出を見てみると、その5分の1は中国からの観光客です。

パリ市内の百貨店担当者に聞いてみると「黄色いベスト運動や大規模ストライキにおいて影響は限られていたが、コロナ禍ではそもそも国外から観光客が来ないため(現在は店舗自体も閉鎖中)、その痛手は大きい」と語ってくれたように、外国からの旅行客は、観光に関わる産業に大きなウエイトを占めていたことが分かります。

プライベートな宿泊形態をより好む傾向へ

ポスト新型コロナにおいて、フランスの人々の休暇の過ごし方は、どのような動きになっていくのでしょうか。

上述のレゼコーでは、ドイツのコンサルティング会社ローランド・ベルガーのアンケート結果を引き合いに出し、人々は国内に、そして家族や両親の家など「商業的ではないもの」を重視するようになるだろうと述べています。

さらにレゼコーは、「別荘などの他にAirBnBなどで部屋を借り、不特定多数の人との接触機会と滞在施設内における密度を、より低く抑える手段が取り入れられていくだろう」とも予測します。

新型コロナウイルス流行以前の近年の旅行傾向は、UNWTOの統計によれば「地元の人たちと同じように暮らし、本物の体験を訴求し、自分を変える」「インスタ映えする瞬間・体験・デスティネーション」「ウォーキング、ウェルネス・スポーツツーリズム」「シェアリングエコノミーの拡大」でした。

レゼコーが述べる「不特定多数との接触を減らす」「密度を低く保つ」という観点も含め、ポスト新型コロナでは、他者との接触を意識しつつも滞在型の休暇がより加速すると見られます。

海外旅行はいつから可能か

ツアーなどを催行する旅行会社にとっては、旅行者以上に回復までの道のりは複雑です。現在、新型コロナウイルスの感染拡大防止から、国内外で多くの観光施設が閉鎖されているからです。

フランス国内においては、大きな美術館、博物館、映画館、コンサートホールなどは5月11日以降も引き続き閉鎖。大型フェスティバルやスポーツイベントなどは9月まで開催されず、サッカーの2019-2020シーズンも再開されないことが、4月27日のフィリップ首相の発表で伝えられました。

観光客がいないルーブル美術館

フランス国外の観光地についても、多くの場所で閉鎖が続いています。各地へのフライトの減便と旅客輸送の容量の問題もあります。

フランスの旅行会社ボヤジャー・デュ・モンド社長のジャン・フランソワ・リアル氏は、レゼコーの取材に対して「新型コロナウイルスに対するワクチンができるまで18ヵ月はかかるだろう」と述べ「新型ウイルスの事象がなくなることが、海外旅行が真に再開するための解決策」と語っています。

閉鎖で閑散とするムーラン・ルージュ

そして今後3~5年については「移動が穏やかになり、頻度は減るが滞在期間が長くなる」と予測します。

段階的な外出制限緩和措置とその後の世界にいかに対応すべきか、状況に応じた柔軟性がより問われそうです。

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