ラッセルの警句

 もしも「20世紀最高の知性は誰か」と問われたら、英国の哲学者バートランド・ラッセルの名は候補から外せないだろう。ラッセルは優れた論理学者、数学者でありながら、反戦と核兵器廃絶を訴えて2度も投獄された活動家の顔も持つ。ノーベル文学賞の受賞者でもあった。今年は没後50年に当たる▲ラッセルは1959年のインタビューで、ダイナマイトを発明したノーベルを例に挙げ「核抑止論」を鋭く批判している▲「ダイナマイトのために戦争は実に恐るべきものになったから、ノーベルは二度と戦争は起きないと考えた。だが、そうはならなかった。水爆も同じことになるだろう」▲語りは続く。「原爆が広島と長崎に落とされたとき、世界は恐怖に打たれた。だが今日、原爆は戦術兵器と見なされて弓矢と同じように重宝されている」▲「使える核兵器」の新型小型核弾頭が実戦配備され、米ロ中が軍拡競争を繰り広げる今日を、彼は60年も前に予見していたようだ。そして「歴史上、軍備競争の大半は戦争に終わっている」とくぎを刺している▲ラッセルは「人類は共通の利害を持つ一個の同胞(はらから)だ。従って、協調は競争より重要だ」と信念を語った。被爆・戦後75年の今も、人道的理想を追求した賢人の言葉は、5月のみどりのようにみずみずしい。(潤)

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