「相州わさび」唯一栽培 歴史と味伝えたい 神奈川・綾瀬

植え付けたワサビの状態を確認する篠崎さん=綾瀬市吉岡

 神奈川県綾瀬市吉岡の篠崎徳治さん(87)のワサビ田で、苗の植え付け作業が行われている。かつては「相州わさび」の名で盛んに栽培されたが、市内では篠崎さん1軒だけとなった。市史にも「特徴的な作物の一つ」と記された地元農業の歴史を守り続けている。

 篠崎さんのワサビ田は広さ約700平方メートル。約120年前、祖父が目久尻川沿いにきれいな湧水を見つけ、開墾したのが始まりという。河岸段丘から広範に湧き出す水温13~15度の地下水が、砂利を敷き、緩い傾斜をつけた独特の栽培地を静かに流れ下っている。

 植え付けは、3月の収穫後に始まった。砂利の汚れを手作業で丁寧に落とし、湧水が常に均一に流れるよう整えて管理する点が、栽培のポイントになる。

 篠崎さんによると、昭和40年ごろまで吉岡・早川地区には最大7軒の栽培農家があった。東京都内の市場にも出荷し、高収入を得る商品作物に成長したが、都市化の進展などで川沿いに連なっていたワサビ田は次第に姿を消していった。

 手作業がこたえ、篠崎さんも年月の経過とともに栽培面積を半分に減らしたが、「先祖が苦労して作ったワサビ田はなくせないとの思いで頑張ってきた」。いまは近くに住む娘夫婦がその思いをくんで手伝ってくれているという。

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