感染確認で危機感、SLも運休 観光に打撃、川下りに暗雲 人吉・球磨 緊急事態宣言・コロナの波紋 

休業中で人影のない球磨川下りの発船場。舟が陸揚げされている=人吉市

 行楽シーズンを迎え、観光列車SL人吉が煙をたなびかせ、球磨川下りの舟が急流でしぶきを浴びる姿が見られるはずだった人吉・球磨。人吉市内の病院に勤務する医師の新型コロナウイルス感染確認で危機感が一気に高まった。観光客の減少により休業を余儀なくされている観光関係者からは一日も早い終息を願う悲痛な声が漏れる。

 国宝・青井阿蘇神社や球磨川、温泉など観光資源に恵まれた人吉市。宮崎・鹿児島両県に接し、県内外に加えて台湾や香港など外国人観光客も多いが、大型連休を控えた4月21日、松岡隼人市長は強い口調で異例の呼び掛けをした。

 「時代に逆行することになるが、『陸の孤島』に戻る覚悟で(感染拡大防止に)臨みたい。連休中、市民は市内から出ず、帰省や他地域からの来訪は控えてほしい」

 その9日前。同市の病院に勤務する男性医師(熊本市在住)の感染が確認され、地域に衝撃が走った。入院患者らへの感染はなかったが、どこかよそ事だった感染症への恐怖が現実のものとなった。

 緊急事態宣言が全国に拡大後の26日に投開票が行われたあさぎり町議選も、候補者たちが感染防止のため選挙運動を縮小する異例の展開だった。

5月末まで運休されるSL人吉。今季の運行が始まった3月14日、人吉駅は鉄道ファンらでにぎわった=人吉市

 観光への打撃は計り知れない。JR九州は4月中旬、SL人吉(熊本-人吉間)などの観光列車を5月末まで運休することを決定。大型連休中の観光客は見込めず、人吉温泉旅館組合加盟のホテル・旅館9軒は現在、ほとんどが休業中だ。

 堀尾謙次朗組合長(63)によると、2月下旬から宿泊客の予約キャンセルが相次ぎ、3月は前年の半数程度に。4月は9割減の見通しで、今後も不透明だ。「少し前まで人手が足りないほど忙しかったのが一転した。どうやって雇用を維持すればいいのか」。堀尾組合長の表情は険しい。

 夏に向けて本番を迎える球磨川での行楽にも暗雲が漂う。昨年1月に上天草市の船会社「シークルーズ」と業務提携した、人吉市の第三セクター「球磨川くだり」。昨年3月から1年間の乗船者は2万6971人と前年比で10・6%増え、経営再建に弾みがつき始めていた。

 瀬崎公介社長(42)は「全国で休校が長期化する中、夏休みに授業を行うとの話も聞く。書き入れ時の夏場に、家族連れの利用客は少ないだろう」と頭を抱える。6月までの予約取消しは、2285人に上るという。

 ラフティング業界も同様。15事業所でつくる球磨川ラフティング協会によると、大型連休中に例年は約5千人が訪れるが、今年は見込めない。年間客数の7割を占める夏場や、秋の修学旅行のキャンセルも相次いでいる。

 人吉市では、ホテルや結婚式場を経営する会社が新型コロナの影響もあって負債が膨らみ、破産手続きを開始した。地域経済が厳しさを増している実態が浮き彫りになった。

 ラフティング協会の大石権太郎会長(50)は、大きくため息をつきながらつぶやく。「対策の打ちようがない。経営も厳しく、早めの終息を願うばかりだ」(小山智史)

熊本日日新聞 2020年5月1日掲載

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