10年間で13球団 元オリ助っ人右腕が語る台湾球界の現状「野球ができるだけで幸せ」

元オリックスで現在は台湾の統一ライオンズでプレーするドン・ローチ【写真提供:統一ライオンズ】

2018年途中にオリックス入団、右腕ローチが4つのプロ野球リーグで勝利を記録

2020年4月22日。米国のMLB、日本のNPB、韓国のKBO、台湾のCPBLという4つのプロ野球リーグで勝利を飾るというレアな記録を達成した人物がいる。それが30歳右腕のドン・ローチだ。今季からCPBLの統一ライオンズに所属するローチは、この日、富邦ガーディアンズ戦に先発すると台湾での初勝利を記録。アメリカとアジアで合計13球団を渡り歩く“ジャーニーマン”は、2018年に2か月だけオリックスでプレーした経験を持つ。「Full-Count」ではローチに電話取材を行い、記録達成の喜び、そして気になるCPBLの新型コロナウイルス対策などについて聞いた。

米韓日台という4つのプロ野球リーグで白星を飾るレアな記録。「達成する前は気にも留めていなかった」というが、今では「とてもクールなことだと思うし、ハッピーな気分だ。自分を誇りに思うよ」と話す。

南ネバダ大から2010年ドラフト3巡目でエンゼルスに入団するが、メジャー昇格前の12年にパドレスへトレード移籍。メジャー初昇格を果たした14年に初勝利を飾った。カブス、マリナーズなどを経て、2017年にKBOのKTウィズに入団。海外リーグへ移籍することにためらいはなかったのか。

「もちろん、初めは慣れない国での生活は大変だったけど、これまで過ごしてきた瞬間瞬間を心から楽しめている。そして、こういうチャンスを与えてくれた野球に感謝しているよ。野球選手としても、一人の人間としても成長する機会を与えてくれたんだから」

そもそもが「郷に入っては郷に従え」というタイプ。韓国、日本、台湾に生活の拠点を置いても「言葉のバリアがある時は、その地域のやり方を理解するのに時間がかかることもあるけれど、自分が常識だと思っていることを無理矢理押しつけるわけにはいかない。まずは受け入れること。些細なことに囚われず、広い視野を持つことが大切だと思う」と話す。

アジアで3つのプロリーグを経験 「日本の選手の野球との向き合い方は世界でもトップクラス」

日本では2018年にオリックスでプレー。ただし、シーズン半ばの7月に途中入団し、実質2か月ほどの滞在だった。それでも、NPBのレベルの高さにおどろかされたという。

「韓国、台湾、日本はそれぞれリーグの大きさが違うので、レベルの高さにも違いは出てくる。日本はチーム数も多く、選手層も厚いので競争が激しい。かなりハイレベルな野球をしていると思う。特に、選手一人ひとりの野球との向き合い方は、世界でもトップクラス。僕自身はコンタクトの上手い日本の打者と対戦したことで、投手としての幅が広がったんだ」

現在プレーする台湾では、いかに野球が国民的スポーツとして浸透しているかを感じることが多いという。

「ファンは本当に野球を愛している。彼らが野球に熱中する姿、常に気に掛けている姿を見ると、本当に素晴らしいと思う。今、台湾では無観客試合を行っているけど、それでも台湾の人々がどれほど野球を好きなのか、その思いを感じることができる。どこに行ってもテレビでは野球中継が流れているし、みんなが野球の話をしているし。とてもクールなことだと思うよ」

新型コロナウイルスは世界で猛威を振るう中、CPBLは当初3月14日に予定していた開幕を2度延期し、4月12日に無観客での開幕へこぎ着けた。関係者に感染者が出た時点でのシーズン中止を公言しているが、台湾球界は実際にどんな状況にあるのだろうか。

「台湾は政府が先頭に立って、新型コロナ対策に素晴らしい対応を取っている。台湾の人々が一丸となって封じ込めに乗り出す姿は、本当に驚くほどだ。だから、開幕することに対して怖さは全く感じなかった。リーグの対応も徹底しているんだ。どこへ行くにも移動には必ずマスクをつけ、球場に入る時は毎日検温。こまめな手洗いも欠かせない。チェック体制も厳格で、もしせきやくしゃみをしたり、体調が良くないように見えたら、すぐに病院で検査をすることになっている」

世界で唯一開催されるプロ野球リーグ 「無観客でもその価値は十分だ」

チームではほぼ1日おきのペースで「こういう症状があったら、すぐに申し出るように」と注意喚起が促されている。絶え間ない呼びかけに「わずらわしく思っている選手もいるとは思う」と話すが、ローチは「もし僕らがシーズンを続けたかったら、健康な状態を保っていなければいけない」とリーグの取り組みを全面サポートする。

「コロナ対策は今、生活の一部として考えるべきなんだ。野球がプレーできるなら、注意喚起されることなんて、ちっぽけな代償。自分はもちろん、自分の周りの人々を健康で安全に保つためには必要なことだから」

無観客という慣れない環境でプレーすることもまた「小さな代償」だと話す。

「もちろん、いつもと雰囲気は全然違うけど、野球ができるだけで幸せ。特にアジアのファンは応援歌を歌ったりするので、いつもほどエキサイティングではないけれど野球は野球。世界で唯一開催しているプロ野球リーグという幸運に恵まれている。無観客でもその価値は十分だ」

5月5日には韓国のKBOが開幕する予定だが、MLBとNPBはまだ見通しが立っていない。これから開幕するリーグにとっても、CPBLの取り組みは好例となるだろう。

「台湾は国もリーグも大きくはないけれど、他の国でスポーツイベントを再開する時には、1つの例になると思う。アメリカ、韓国、日本にいる仲間たちが野球をプレーできない辛さを思うと、本当に心が痛むんだ。キャンプをしていたのに中断し、それ以降何もできない状態にいる。みんなが愛する野球をプレーできる日が1日も早くやってくることを願っているよ」

4つのプロ野球リーグ全てで、安全な状態で試合が行われる日が1日でも早くやってくることを、今はただ祈るばかりだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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