「両立」の時へ

 きょうは立夏で、暦の上では夏になる。そんな時季から外れてしまうが、詩人の伊藤桂一さんに「微風」という一編がある。〈掌(て)にうける/早春の/陽(ひ)ざしほどの生甲斐(いきがい)でも/ひとは生きられる〉▲いま、日本に世界に、ささやかな「陽ざし」も見いだせない人が数多くいる。感染の不安にさらされ、重症化して苦しむ人、休みなく医療現場を支える人…▲それだけではない。やむなく店や施設を休業し続ける人、先の経営や生活がまるで見通せない人。感染を抑えようとすれば、人の動き、経済の動きが抑えられてしまう。綱渡りが続いている▲新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が延長された。「特定警戒」の13都道府県では、外出自粛などの徹底を。ほかの県では、感染の拡大防止と、社会活動の両立を。コロナとの長い闘いを頭に置いた生活が求められている▲本県のように感染者の数が限定的な地域で人が動きだせば、店や施設は展望が持てるかもしれない。かといって、うかつに動いてこれまでの辛抱を無駄にしてもいけない。「両立」は生易しくない▲きょうは「こどもの日」でもある。健やかな成長を願うだけでなく、休校措置をどうするか、学びの機会を考える局面にある。まずは手のひらに受けるほどでいい。社会のあちこちで「陽ざし」が待たれる。(徹)

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