「安全に楽しく走る」基本がパーフェクトな優等生のあるべき姿。フォルクスワーゲン・ゴルフR【ベース車両一刀両断!!】

 モータースポーツ専門誌のauto sport本誌では現在、スポーツカーをはじめ、ホットハッチ、セダン、スポーツクーペなどあらゆる市販ロードカーを“ぶった切る”ピリ辛・市販車インプレッションを不定期連載している。同企画に登場するのは、モータースポーツの中でも、いわゆる“箱車レース”と呼ばれるカテゴリーにおいて、レーシングマシンのベースとなるロードカーたちだ。

 今回はそんな『ベースマシン一刀両断!!』シリーズの第17回目(番外編)フォルクスワーゲン・ゴルフR編をお届けする。
 すでにモデル末期を迎えた7代目ゴルフ。多くのスポーツモデルは多少の犠牲を払っているが、GTIの上に位置するゴルフGはどうなのか?

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 フォルクスワーゲン(VW)の新型ゴルフが2019年10月24日、全世界に公開された。8代目にあたるこのゴルフの日本導入は、2020年夏頃と思われ、まだ半年以上は現行モデルの販売が続くことになる。

 VWは2015年、排ガス規制をクリアするための特殊なソフトウェアを使用していた事件“ディーゼルゲート”が発覚。VWは優等生だと思われていただけに、そのダメージは甚大だった。現行の7代目ゴルフも、その渦中にあった。

 個人的にではあるが、ディーゼルゲートはドイツ自動車業界の技術力の相対的な低下が根底にあると思う。

 とはいえ、商品としての自動車技術では、現在のところドイツはラップリーダーである。それはごく普通のスタンダードモデルに乗れば明確だ。

 ゴルフは幅広いバリエーションを持つが、今回紹介するゴルフRは、そのスペシャルモデルだ。特別なのは外観や装備だけでない。たとえば最大出力310psを誇る2.0リッター4気筒ターボエンジンだ。

ゴルフRは2.0リッター直列4気筒ターボのTSIエンジンを採用。よりスタンダードに近い立ち位置のGTI(230ps)と字面は同じだが、エンジン型式はRはDJH、GTIはCHHとなっており、そもそもエンジンそのものが違い、出力は310psとなるなど大幅にパワーアップ。ギヤボックスもGTIの6速DSGに対し、Rは7速DSGとされている。

 VWやアウディでは同排気量のTSIエンジンを広く採用しているが、それらとはその中身は別物だ。とくにクランク周りの設計が異なるようで、エンジンの回転音が違い、回転フィールもシャープである。

 排気音はV8のような迫力で、耳でもパワフルさを感じさせる。その正体は合成音で、スピーカーから出しているのだが、回転数やスロットル開度、エンジン負荷などに応じ違和感が少なくなるように仕上げられている。

 パワーは4WDシステム『4motion』で路面に伝えられる。これはリヤデフに装着された電子制御クラッチによって後輪へのトルク配分を決めるシステムで、最大50%のトルクが後輪へ伝えられる。

 レスポンスも良く、もし最大加速が必要なら無遠慮にアクセルを踏み込むだけでいい。さまざまな電子制御がパワーを無理のないレベルにセーブしてくれる。

■高性能&ラグジュアリーがR、GTIはスポーティなホットハッチの見本

 Rの乗り味はGTIとはまったく異なる。スポーツハッチ的なダンピングの効いたものではなく、サスペンションがゆったりとストロークするグランドツーリングカー志向。これは、可変ダンパーを“スポーツ”に切り換えても基本的には同じだ。

 つまり、この310psの高性能マシンは、ごく普通のゴルフとしても使える。コンビニに買い物に行くのも苦痛ではないし、猛々しい排気音は室内だけに響いていて、外には影響しない。エンジンのモード如何で大人しくすることもできる。

 というわけで、ゴルフRは高性能でもあり、ラグジュアリーでもある。ベースモデルの2倍という価格(約580万円~)も納得できるレベルだ。

 ただし、スポーティなゴルフが欲しいなら、GTIを選択したほうがいい。GTIの軽快な動きはホットハッチの見本で、VW流の高いスタビリティの上に成立させている。

フォルクスワーゲン・ゴルフGTIのフロントスタイル
フォルクスワーゲン・ゴルフGTIのコクピット

 個人的には、可変ダンパーのつかない17インチタイヤモデルがベスト。ただ、モデル末期ということで、現在はGTIパフォーマンスというエボリューションモデルが展開されていて、これが245psのパワーと19インチタイヤを身につけている。熱さでいえば、それが最上だ。

 スポーティモデルの良さは、単に高性能というだけではない。ドライバーの思いどおりに動くことはとても重要で、それは人間が扱うあらゆる道具にとってもっとも優先されるべき要素だ。

 次元の低い乗り心地志向や、カタログを飾るための燃費、見栄え最優先で本質部分を値切って安物感満載にするコスト管理など、言い訳をたくさん用意するナマクラなスタンダードモデルでは、運転する楽しみを得にくい。

 だが、ゴルフはスタンダードモデルから充分にスポーティであり、ドライバーが知覚を駆使して安全に楽しく走れる道具として仕上げられている。

 単純な技術力はともかく、そうしたクルマ作りに対する姿勢で、日本メーカーは追いつく日が来るのだろうか?

近年世界的に人気を博しているツーリングカーカテゴリーであるTCRにはフォルクスワーゲンも参戦。こちらのベース車両にはRではなくGTIが採用されている。市販車としても共通コンポーネントを使用しているだけに、アウディRS 3 LMSとは2.0リッター直列4気筒ターボエンジンやギヤボックスなど、多くの部分で同じものが使われている。キャラクターとしては、ゴルフのほうがコーナーの進入などでアドバンテージがある一方、空力特性の違いで最高速はRS 3に分がある。
ドライバーを中心に考え抜かれたコクピット。スイッチの配置や操作性、オーディオや空調の操作も使いやすい。なお、スピーカーから合成音を発生させる『サウンドジェネレーター』は、GTIとしては最小となるup! GTI(1.0リッター3気筒ターボ)でも、3.0リッターV6エンジンのような音を楽しめる。
フォルクスワーゲン・ゴルフR

■フォルクスワーゲン ・ゴルフR 主要諸元

車体

車名型式 ABA-AUDJHF

全長×全幅×全高 4275mm×1800mm×1465mm

ホイールベース 2635mm

トレッド 前/後 1535mm/1510mm

最低地上高 130mm

車両重量 1510kg

乗車定員 5名

駆動方式 4WD

トランスミッション 7速DSG

ステアリング 電動パワーステアリング

サスペンション前/後 マクファーソンストラット/4リンク

ブレーキ 前/後 ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク

タイヤサイズ
225/40R18

エンジン

型式 DJH

形式 直列4気筒DOHCインタークーラー付きターボ(4バルブ)

排気量 1984cc

内径×行程 82.5mm×92.8mm

最高出力 228Nm(310kgm)/5500ー6500rpm

最大トルク 400Nm(40.8kgm)/2000ー5400rpm

使用燃料 無鉛プレミアムガソリン

タンク容量 55L

auto sport 2019年11月15日号 No.1518より転載

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