人形浄瑠璃で描く曽我物語 コロナ沈静後にお披露目

新作に登場する人形たち。左から弟の曽我五郎、大天狗、兄の曽我十郎(相模人形芝居下中座提供)

 国指定重要無形民俗文化財の「相模人形芝居下中(しもなか)座」(神奈川県小田原市)が、小田原と縁が深い曽我兄弟の仇(あだ)討ちを題材とした新作人形浄瑠璃「曽我物語 十郎五郎出立の段」をつくった。16日に市内で完成記念公演を予定していたが、新型コロナウイルス感染防止のため中止に。メンバーは沈静化後の公演に向け、気持ちを新たにしている。

 下中座は、江戸時代中期から小田原市東部の小竹地区に伝わる三人遣いの人形座。現在の団員は31人で、相模人形浄瑠璃の公演や継承者育成、新演目の創作活動を続けている。

 下中座のある地区に近い曽我地区は、曽我十郎祐成(すけなり)と曽我五郎時致(ときむね)兄弟ゆかりの地。地元に伝わる歴史に目を向けてもらおうと、広く知られる曽我兄弟を題材にした新しい人形浄瑠璃の公演を目指した。

 「曽我物語」は今も能や歌舞伎で目にする一方、人形浄瑠璃では上演されていない。そこで、これまで足柄山の金太郎を題材にした3作品も担当した浄瑠璃作家の藤田和嘉子さんに新作を依頼し、昨年秋に出来上がった。

 父親の敵である工藤祐経(すけつね)の刺客に何度も命を狙われる兄弟が、山彦山(現曽我山)の天狗(てんぐ)たちに助けられ、迷いながらも「犬死にするよりは」と仇討ちに向かうというストーリー。上演時間は約30分。

 全長約100~130センチの人形が8体登場し、それぞれ3人の団員が気持ちを一つにして人形を操る。林美禰子座長(75)は「美しい人形たちの調和の取れた動きと、語りや三味線を合わせた総合芸術」と人形浄瑠璃の魅力を語る。

 仇討ちの時、兄弟が傘を燃やしてたいまつにしたという故事にちなんだ5月の恒例行事「曽我の傘焼きまつり」での初公演を目指し、昨年12月から稽古を重ねてきたが、新型コロナの影響で3月下旬にまつり自体の中止が決定した。

 「残念だがやむを得ない。新型コロナが終息に向かった後、晴れやかな気持ちで披露したい」と林座長。団員たちもその日を心待ちにしている。

 ◆曽我兄弟の仇討ち 1193年5月、源頼朝が行った富士の巻き狩りの際に、曽我十郎祐成と曽我五郎時致兄弟が父親の敵である工藤祐経を討った事件。日本三大仇討ちの一つ。

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