大村市のV長崎練習拠点整備 計画難航 予算案めど立たず

大村市総合運動公園とV長崎クラブハウス整備案

 長崎県大村市と通販大手、ジャパネットホールディングスが、同市黒丸町の市総合運動公園での整備を目指しているサッカーJ2、V・ファーレン長崎の練習拠点。市と同社はスポーツによる町づくりを掲げ検討を進めているが、整備計画や事業費を巡り市議会からの反発は強い。同公園での整備方針表明から間もなく1年となるが、関連する予算案などもめどは立っておらず、計画は難航している。現状や課題を追った。

 「100年に一度のチャンスととらえ、スポーツを軸とした町づくりを進めたい」-。1月31日、園田裕史市長は高田旭人社長との会見でこう力を込めた。計画を巡り園田市長は折に触れ、国の成長戦略の柱にスポーツが位置付けられていることを挙げ、地域活性化や雇用の創出、市民の健康増進など練習拠点整備による効果を強調してきた。
 そもそも大村市が練習拠点の移転先として手を挙げたのが2018年末。当初から総合運動公園を候補地としていたが、ジャパネット側は新工業団地(雄ケ原町)での整備を提案。しかし、製造業の誘致で雇用や定住の拡大を目指していた市側は当初から難色を示し、19年4月に新工業団地での整備を断念していた。
 同年6月、高田社長は総合運動公園を候補地に検討すると表明。市は当初、7月中に一定の方針を示すとしていたが、計画内容の調整のため時期は何度もずれこみ、紆余(うよ)曲折を経て20年1月末にようやく整備案が示された。
 
 整備案によると、市が総合運動公園北側にサッカー場3面(天然芝2面、人工芝1面)や体育館などを3段階に分けて整備。未整備区域を利用することで、公園整備に対する国の補助金返還を最小限にとどめるよう配慮した形だ。
 一方ジャパネット側は約20億円をかけ、東側の市道を挟んだ隣接地にクラブハウスや屋内練習場を整備する。最終的に事業が完了するのは10年以上かかる見込みだが、当面はクラブハウスとサッカー場2面態勢で22年の運用開始を目指すとしている。

V長崎の新練習拠点整備が計画されている大村市総合運動公園=同市黒丸町

 ジャパネット側の試算では、運動公園での整備に要する市の負担は約18億円。これを受け市議からは「規模が大きすぎて身の丈に合わない」「民間企業のためになぜ払わないといけないのか」などと疑問視する声が相次いだ。
 市議の一人は練習拠点について「将来的に考えるとぜひとも実現すべき」と歓迎する。一方で「現計画では時間がかかりすぎるし、市民の理解も得られない。別の土地を提案するなど、もっと現実的な交渉をすべき」と指摘する。
 整備後の維持費負担についても現状では明確になっていない。
 諫早市によると、V長崎が現在拠点としている市サッカー場(多良見町)では、芝の張り替えや水代など天然芝1面の維持に予算ベースで年間2300万円を計上。サッカー場の使用料を含め、こうした費用は全額市が負担している。
 同社の試算では、新練習拠点の天然芝2面、人工芝1面の維持に必要となる費用は年間6500万円。大村市はV長崎から使用料を取るとしているが、明確な負担までは話を詰め切れていないのが現状だ。
 サッカー場の市民の利用について指摘する声も。市はサッカー場はV長崎の「占有」でなく、「優先」との考えを示しており、オフシーズンやチームがアウェー戦に出ている時などの市民の使用を想定している。別の市議は「ちゃんと市民が使えるのかという疑問はある。税金が使われる以上、主体は市民であり、V長崎のためであってはならない」とくぎを刺す。

 整備案発表後の3月の定例市議会一般質問では、登壇した22人中15人が質問内容に練習拠点を挙げた。議会最終日には1月の会見の報道について「両者が合意したと報じられた」と指摘。「議会はまだ十分な協議および認識の一致すらしていない」として、園田市長に対する「市政運営の改善を求める決議」を可決した。これを受け園田市長は4月27日の会見で、整備案合意が「(市と同社の間での)基本的な考えが一致したということ」と述べるなど、計画を巡る市と議会との溝は深いままだ。
 こうした状況を踏まえ、市はジャパネット側と協議を進めているが、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり思うように進んでいないという。たとえ実施設計などの予算案が6月の市議会で可決されたとしても、22年の運用開始に間に合わせるのは難しい見込み。
 取材に対し市は「現状はとにかくジャパネット側と協議を進め、市民や議会の理解を得られるような案を示していくしかない」としている。


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