コロナ禍 ひとり親家庭や多子世帯直撃 垣間見える生きづらさ  佐世保・弁当無料配布活動に密着

支援者から弁当の袋を受け取る母親(左)=佐世保市内

 新型コロナウイルスの感染拡大は、長崎県内のひとり親家庭や多子世帯も追い詰めている。臨時休校や外出自粛などで経済的・精神的な負担は増しているのに、「誰にも迷惑を掛けられない」と抱え込む-。佐世保市の子育て支援団体などが実施した弁当の無料配布活動に密着すると、そんな葛藤や生きづらさが垣間見えた。

 同市内で子ども食堂を営む「親子いこいの広場もくもく」(数山有里代表)と佐世保青年会議所は4月27日~5月2日、母親や子どもたちに無料で弁当を配った。昼食作りや家計の負担を軽減するのが目的だ。
 4月28日正午ごろ。佐世保港近くのスペースに母親たちが車や徒歩で次々に訪れ、スタッフから弁当を受け取った。この日のメニューは肉団子、オムレツ、炊き込みご飯。身重の体で車でやってきた女性(39)に声を掛けた。「昼食代が浮くだけでも全く違う」。女性はほおを緩めて言った。
 高校2年から1歳まで8人の子どもを育てている。塗装業の夫はビルや船舶などの現場が“3密”になるとして出勤が制限され収入が減少。臨時休校で子どもが家にいる時間が長くなり食費は倍に膨らんだ。
 自身は出産間近で働くに働けない。家賃の支払いを猶予してもらったり、夫の昼食をおにぎり一つで我慢してもらったり。切り詰められるお金がなくなり「そろそろ限界かも…」と感じていた時、この支援に出合った。「温かく見守ってくれる人はいる」。救われる思いだった。
 市中心部に住むアルバイトの女性(38)は5人の子どものシングルマザー。コンビニの夜勤を中心に生計を立てている。今春、子どもが高校と中学にそれぞれ進学。出費がかさみ、貯金は底をつき始めている。
 微熱が出て、2週間仕事を休んだ。家計のため、普段なら体調不良を押してでも仕事するところだが、そうしなかった。感染したわけではなかったが、「自分がよくても、他人に迷惑はかけられないので」。
 ウイルスにおびえる日々がいつまで続くのか。今の生活がいつまでもつのか。不安は消えない。でも、配布される弁当がささやかな幸せをくれる。「家族でわいわいと同じものが食べられる。こんなときだからこそ、みんなで食卓を囲めるのがうれしい」
 家族の人数分の弁当が入った袋を揺らし、女性は横断歩道を駆けていった。
 「元気?」「たくさん食べて」。弁当を受け取りに来た母親たちと言葉を交わしながら、数山代表は「SOSを出して良いのか迷っていた人の『入り口』になれたかもしれない」と言った。今後も地域の団体と協力して取り組みを続ける予定。「(新型コロナとの戦いは)長期戦になるはず。一過性にならないように支えていきたい」
 密着取材は4日間。しんどい思いを抱えつつも、笑顔を失わない母親たちの姿が印象的だった。少しでも心休まる時間がありますように-。家路を急ぐ背中を見送りながら、そう願わずにはいられなかった。

 


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