新型コロナ禍で貯蓄が尽きた飲食店経営者。家計と事業を再建する方法は?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、新型コロナ禍の影響で貯金が尽きてしまったという飲食店経営者の方。立て直す手段はあるのでしょうか。FPの平野泰嗣氏がお答えします。

中華料理店を経営している個人事業主です。新型コロナウイルス感染症拡大防止のための自粛モードの影響を受け、3月頃から売上が急激に落ちました。緊急事態宣言や東京都からの飲食店への営業時間短縮の協力要請が出た4月中旬から、さらに厳しい状況です。通常の営業時間は午前11時から夜の10時頃までですが、現在は平日は午後8時まで、土曜・休日は休業しています。平日は、お店は開けていますが、売上がほとんどない状況です。

これまでは、大きな儲けはないものの、地元の常連客を中心に地道に商売をしてきました。幸いなことに住宅ローン以外に借金はありません。1人息子が今年から私立大学に通うことになりました。教育費と住宅ローンの返済をギリギリなんとかやっていけると見込んでいたのですが、新型コロナの影響を受け、大変厳しい状況です。進学費用と3月、4月の固定費(お店の家賃や水道光熱費)で、貯金がほとんど底を尽いてしまいました。5月以降、新型コロナウイルスの影響がさらに長引けば、お店の家賃や住宅ローンの返済ができなくなり、商売も家計も破綻してしまいます。もっと貯金をしていればよかったと後悔しています。これからどうしたら良いかとても不安です。

<相談者プロフィール>

・相談者:56歳、男性、既婚(妻54歳、専業主婦)

・子ども:19歳(大学1年生)

・職業:自営業(東京都内飲食店経営)

・住居費:持ち家(住宅ローン返済中:【フラット35】月約8万円、60歳完済)

・店舗は賃借、事業用の借入なし

・老後資金として小規模企業共済に加入


平野:大変な状況の中、ご相談をいただきありがとうございます。新型コロナウイルスによる影響で家計と商売の両面で大きなダメージを受け、将来について不安に感じられていることと思います。今回は、家計と事業の両面でさまざまな支援制度を活用しながら、現時点でできることについてアドバイスしたいと思います。

「貰う」「止める」「借りる」を徹底活用

相談者様の現状を振り返ると、商売上の借金もなく、住宅ローンも60歳で完済、老後資金のために小規模企業共済に加入されています。新型コロナウイルス感染症拡大の影響がなければ、お子様の教育費負担が大きい今年からの4年間を乗り切れば、老後のための貯蓄期間もあり、かなり計画的・堅実にやってこられたのだと思います。貯金が底を尽きそうということで、もっと貯金してくれば良かったと後悔しているということですが、決してそんなことはありません。世の中と同様に家計にも「緊急事態」が起こったのです。

緊急事態の家計の立て直し方ですが、固定費の削減、変動費の削減など一般的な家計の見直しは実施済みということを前提にアドバイスします。

現在、国などでは、個人の方向けにさまざまな支援策を打ち出しています。施策を整理すると給付(貰う)、猶予(止める)、融資(借りる)の3つになります。家計で施策を利用する際の優先順位としては、貰う、止める、借りるの順番になります。

家計の立て直しに使える制度は?

では、実際にどのような支援制度があるのかを紹介しましょう。まずは家計面です。

【生活資金】
●特別定額給付金
当面の生活資金としては、特別定額給付金があります。新型コロナウイルス感染症の影響を受けている全ての国民に対して、家計への支援を目的に、給付対象者1人につき10万円が給付されます。相談者様の場合、3人家族なので30万円の給付になります。市区町村が申請窓口となり、郵送もしくはオンラインによる申請を行います。
総務省|特別定額給付金

●公共料金の支払い猶予
また、水道光熱費などの公共料金、電話料金などの通信費も新型コロナウイルスの影響を受けた家庭に対して、支払いを猶予する対応をしていますので、支払先のホームページなどで手続き方法を確認してください。
・水道光熱費:新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、電気・ガス料金の支払いが困難な皆様へ
・通信費:「新型コロナウイルス感染症の影響拡大に伴う料金支払期限延長等の実施に係る要請」及び「新型コロナウイルス感染症の影響拡大に伴う学生等の学習に係る通信環境の確保に関する要請」に対する電気通信事業者の取組

●生活福祉資金貸付制度
各都道府県社会福祉協議会では、低所得世帯等に対して、生活費等の必要な資金の貸付け等を行う生活福祉資金貸付制度を実施しています。今回の新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえ、貸付対象を休業や失業等により生活資金でお悩みの方々に拡大して、緊急小口資金等の特例貸付を実施しています。特別定額給付金や支払猶予でも厳しいという場合は、利用を検討してみてください。申込は、各市区町村の社会福祉協議会になります。
・貸付上限額:学校等の休業特例・個人事業主の場合20万円(その他10万円)
・償還期間:2年間(据置1年以内)
・貸付条件:無利子、保証人不要
生活福祉資金貸付制度 |厚生労働省

【教育費】
大学の教育費の支援に関しては、日本学生支援機構が実施する給付型奨学金(家計急変)、貸与型奨学金(緊急・応急)があります。申込窓口は、在学中の大学になっています。また、各大学でも授業料減免や納付猶予を実施している場合がありますので、在学中の大学から情報を入手してみてください。
新型 コロナウィルス感染症の影響で学費等支援が必要になった学生のみなさんへ

【住居費】
住宅ローンに関しては、各金融機関は、返済期間を延長(返済額軽減や元本返済の一時猶予など)、返済方法の変更について柔軟に対応する取扱いを実施しています。返済が滞る前にお借入れの金融機関に相談してみてください。事業用資金の借入にも影響する場合がありますので、合わせて相談してみると良いでしょう。
相談者様が利用されている【フラット35】の取扱い機関である住宅金融支援機構では、新型コロナウイルス感染症の影響で住宅ローンのご返済が困難となった方に対して、今後の返済についての相談を受け付けています。
新型コロナウイルス感染症の影響により機構の住宅ローンのご返済にお困りの方へのお知らせ:住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)

●生命保険会社の契約者貸付制度
相談者様の場合、生命保険の加入について情報がなかったのですが、終身保険など解約返戻金がある保険に加入している場合、生命保険の契約者貸付を使用することができます(各保険会社、保険契約による)。契約者貸付を利用した場合、通常は所定の利息が発生しますが、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、一定期間無利息とする扱いをしている生命保険会社もありますので、確認してみてください。

事業の再建に使える制度にはどんなものがある?

ここまでは、家計面を中心に見てきましたが、家計を支える商売についても立て直していく必要があるでしょう。個人の方と同様に、事業者(中小企業者、個人事業者)向けにもさまざまな支援策が用意されています。

【給付金】
すでにご存じかと思いますが、感染症拡大により、特に大きな影響を受ける事業者に対して、事業の継続を下支えし、再起の糧とするために、事業全般に広く使える給付金として、持続化給付金が支給されます。

●持続化給付金
新型コロナウイルス感染症の影響によって、ひと月の売上が前年同月比で50%減少している事業者に該当する場合、給付の対象になります。
・給付額:個人事業者100万円(法人は200万円)※昨年1年間からの減少分を上限とする
売上減少分の計算方法
前年の総売上(事業収入)-(前年同月比▲50%の売上×12)
※10万円未満切捨て
※白色申告で前年同月比の比較ができない場合、比較する月収が、昨年の事業収入÷12で計算した金額になります。
・申請期間:令和2年度補正予算成立の翌日から令和3年1月15日
・申請方法:持続化給付金の申請用HP
※申請支援窓口が設置される予定
持続化給付金

●東京都感染拡大防止協力金
相談者様の場合、東京都で営業されている飲食店なので、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、東京都の要請や協力依頼に応じて、全面的に協力した場合、協力金が支給されます。具体的には、緊急事態措置の期間中(令和2年4月11日から5月6日まで)のうち、少なくとも4月16日から5月6日までの期間、休業もしくは食事提供施設の場合は営業時間を短縮した場合、協力金が支給されます。
・給付額:50万円(2店舗以上の事業者は100万円)
・申請期間:令和2年4月22日から6月15日
・申請方法:ホームページからの申請、他郵送・持参(都税事務所に設置された専用ボックス)
東京都 感染拡大防止協力金

相談者様の場合、持続化給付金と東京都感染拡大防止協力金とを合わせて150万円の給付金が受けられる見込みです。

【融資制度】
給付金や協力金を受給しても資金繰りが厳しいという場合は、融資制度を活用します。新型コロナウイルス感染症の影響を受け、売上が減少した事業者に対して、実質無利息・無担保の各種融資制度が用意されています。

●政府系金融機関と信用保証協会を利用した資金調達
大きく2通りあって、政府系金融機関である、日本生活金融公庫、商工中金が直接事業者に貸し出す方法と、民間の金融機関(銀行、信用金庫など)が貸し出し、信用保証協会が公的保証を行い、都道府県や市区町村が利息や信用保証料を補助する制度融資という方法があります。セーフティネット保証は、信用保証協会を使った金融支援の仕組みとなっています。

ポイントは、直接貸し付ける日本政策金融公庫・商工中金と、各都道府県の制度融資、市区町村の制度融資の買入条件を比較することです。借入期間、据え置き期間の長さ、無利息の期間、無利息期間経過後の金利、保証料補助の有無などです。
国、都道府県、市区町村単位で金融相談を受けられる窓口を用意していると思いますので、調べて、相談してみてください。

●小規模企業共済による資金調達
上記の緊急融資制度は、申し込みが殺到しており、融資の実行までかなりの時間を要すると聞いています。相談者様の場合、小規模企業共済に加入されているとのことですので、特例緊急経営安定貸付けの利用を検討してみてはいかがでしょうか。
・借入額:50万円~2000万円(掛金納付月数に応じて、掛金の7割~9割)
・借入期間:借入額が500万円以下の場合は4年、借入額が505万円以上の場合は6年(いずれも据置期間1年を含む)
・利率:0%(無利子)
・返済方法:据置後、6か月毎の元金均等払い
・提出先:中小機構(小規模企業共済を運営)
共済制度|中小機構

ただし、令和2年4月30日時点で、申請申込様式は調整中とのことですので、申込は始まっていない状況です。

どのくらい借入をすれば良いのかということですが、新型コロナウイルスの影響がどのくらい続くかわからない状況です。足りなくなればまた申込をすれば良いという考え方もあるかもしれませんが、少しゆとりをもって多めに借りて、状況が落ち着いた頃や利息が発生する時期に合わせて、一部繰り上げ返済などした方が良い、と個人的には思います。

新型コロナの後を見据えた準備も少しずつ

給付金や借入による資金調達を行って、当面の資金繰りが確保できた場合でも、その先のことを考えておく必要があるかもしれません。こんな大変な時に、先のことなんて考えられないと思われるかもしれません。けれども、新型コロナウイルス感染症を契機として、さまざまなところで、ライフスタイルや行動様式の変更が余儀なくされています。

新型コロナウイルス感染症が落ち着いて、元通りの状況になることは、望ましいことですが、そうなるとは限りません。デリバリーサービスに力を入れている大手飲食チェーンに顧客を持っていかれる可能性もあります。

●国の生産性革命推進事業の3つの補助金
国が実施する生産性革命推進事業では、ものづくり補助金、小規模事業者持続化補助金、IT導入補助金の3つの補助金を用意しています。ものづくり補助金は、革新的な製品・サービス開発、生産プロセスの改善、小規模事業者持続化補助金は、ホームページやチラシの作成など計画的に行う販路開拓、IT導入補助金は業務効率化や顧客獲得のためのIT導入の資金の一部を補助(原則返還不要)する制度です。
中小企業の生産性革命を応援します! | 中小企業生産性革命推進事業

従来からある制度ですが、新型コロナウイルス感染症対策として、制度内容が拡充されています。特に使い勝手の良い制度は、小規模事業者持続化補助金です。非対面販売のためのホームページの作成・改良、店舗の改装、チラシの作成、広告掲載など、かかった経費の3分の2を補助(新型コロナ対応の上限は100万円、一般は50万円)です。

●東京都の業態転換支援(新型コロナウイルス感染症緊急対策)事業
これは、東京都が飲食店等に向けて実施する事業ですが、新たなサービスとして「テイクアウト」「宅配」「移動販売」を始める事業者に対して、販売促進費、車両代(リース)、器具備品費(WiFi導入費、タブレット端末、梱包・包装資材等)、その他(宅配代行サービスに係る初期登録料、月額使用料、配送手数料等)を助成する制度です。
・助成限度:100万円(助成率5分の4)
・助成対象期間:交付決定から令和3年1月31日(交付決定前で令和2年4月1日以降の経費でも契約書等のエビデンスがあれば助成対象となる)
業態転換支援(新型コロナウイルス感染症緊急対策)事業 | 事業

ひと昔前であれば、デリバリーというと「出前」のイメージで、特別な日、忙しい日に利用するのが一般的でしたが、最近は、デリバリー用のバイクや新しい業態として参集した個人事業主が自転車でデリバリーをしている光景をよく見かけるようになりました。新型コロナウイルス感染症が落ち着き、日常を取り戻したとして、その日常の中に新しいサービスが根付いている可能性もあります。

事業者向けの支援施策は、国・都道府県・市区町村の単位で別個に用意されていますので、お時間のある時にチェックしてみてください。

今は、家計・商売の正面で大きなダメージを受け、大変な思いをされているかと思いますが、時間短縮・休業期間中は、少し先のことを考える時間を貰ったという気持ちで、商売の先のことを見直してみてはいかがでしょうか。新型コロナウイルス感染症に負けず、家計と事業の緊急事態を家族一丸となって乗り越えましょう。

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