車内の空気を浄化、フィアット「D-fenceパッケージ」の実力は?

あまり煽るような書き方はしたくありませんが、今後、新型コロナ禍対策の一助になるかもしれない、ということで「乗員保護のための車内環境作り」についての情報を取り上げてみました。


フィアットのD-Fenceパッケージ

フィアットが今回欧州向けの500ハイブリッドとパンダハイブリッドに設定したのが「D-Fenceパッケージ」です。本国のリリースを確認するとこの装備は「乗員の健康へのより大きな配慮を行うものであり、快適な移動のために、車の客室を消毒するのに役立ちます」ということなのです。ちなみに“D-Fence”とは「ドライブ」を表す文字「D」と、英語で「フェンス(柵、塀)」を意味する単語を組み合わせて作成されたとあります。

具体的に見ると第一の特徴として外部からの不純物をブロックするのに役立つ、高性能キャビンフィルターがあります。粒子状物質とアレルゲンの100%をブロックし、カビやバクテリアの発生を98%削減するとあります。この装置は、空気の取り入れ口とキャビンの間に配置され、外気がキャビン内に導入される前にろ過できます。もちろんその空気は空調システムと換気システムで使用されることになります。

第2の特徴はキャビン内に設置した空気清浄機です。当然のように花粉、および細菌のような微粒子を、装備しているHEPAフィルターによってろ過し、車内の空気を浄化します。さらに感心したのは、この空気清浄機を取り外して、家庭内でも使用すること。屋内に浮遊する微粒子の軽減にも力を発揮できるわけです。

そして3番目の特徴はUVランプを備えている点です。キャビン内の例えばステアリングホイール、シフトレバー、シートなど手や体の触れる、すべての表面に存在する細菌を最大99%除去するとあります。この小型で効果的なUVランプの装備も他の二つの装備同様、乗員の安全を車内環境の面でサポートしてくれることは確かでしょう。ただし、この装備が今回の新型コロナにどこまで効果的であるか、という提示はしていません。

それでもイタリアは、世界的に見て感染者や犠牲になられた方が多かった国。その苦しみや収束に向けての思いを込めての装備でしょう。残念なのはこうした装備や装備車を現状、日本で入手できないこと。何とかしていただけると嬉しいですが……。

フィルターといえばテスラ

高性能フィルターで外気をろ過するということで思い出すのがEV(電気自動車)専業メーカーであり、プレミアムEVという独自の価値観を作り上げたテスラのクルマです。実はテスラには「HEPAエアフィルトレーション・システム」という装備があります。そのモードの名前が“生物兵器防衛モード”。なんともアメリカのメーカーらしいというか、実に刺激的なネーミングです。

モデルXをはじめテスラ車はエアコンに“生物兵器防衛モード”を装備

今回の新型コロナウイルスでも、つねに話題になった単語の一つに病院などにある“クリーンルーム”がありました。外気をろ過したり、室内の気圧を調整してウイルスの出入りを遮断したりする、特別な部屋のことですが、テスラはその状態をキャビン内で作り出せるのです。

本来は、大気汚染で亡くなる人が交通事故で亡くなる人の2倍に達しているという点から、その環境問題への対策の一つとして2016年にテスラの開発チームから発表があったシステムですから、すでに4年が経過しています。しかし今回、世界的なパンデミック発生によってウイルス問題が大きく取り上げられると、世界からもこのシステムに対する注目度が上がってきているのです。

同社は当時から環境問題に対して高い意識を持ち、解決すべき極めて重要な問題であると捉えていました。毎年、交通事故で亡くなる人の2倍以上に当たる300万人が大気汚染によって命を落としているという事実に対する解決策としてひとつのシステムを開発したのです。

まずは車の室内への空気導入ルートに使用するHEPA (High Efficiency Particulate Air Filter) フィルトレーション・システムの開発し、フィルターの高性能化を図りました。当然、その開発の発端となったのは病院やクリーンルーム、さらには宇宙産業などで空気ろ過システムがあったと言います。このHEPAフィルターですがJIS規格でも「定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕獲率を有すること」などと規定されています。

キャビン前方にある大きなヘパフィルターを通過した外気はテスラ・モデルXの車内に

少しばかり分かりづらいですが、テスラの計測によれば、モデルXの室内の汚染レベルは2分も経過しないうちに測定器の計測可能レベルを下回るほどクリーンな状態、つまり計測器で測れないほど綺麗になったということです。さらにフィルター機能と同様に実現したのはキャビンの圧力を外気圧よりやや高めすることでした。これによって、室内を完全に密閉することなく、空気侵入を防ぐことができるそうです。

もちろんエアコンの外気導入経路をフィルターによって守ることで、総合的には生物兵器による攻撃をも避けることができる、と同社は説明しています。このシステムによって、テスラオーナーは言わばクリーンルームの中でドライブを楽しめるということになります。

国産車でも備わった空気清浄機能

ここまで見てくるとフィアットは欧州のみ、テスラのラインナップは高額車となると、手軽にはキャビン内のクリーン化は手に入らないのでしょうか?

まず考えられるのは最近自動車にも搭載が進んできたパナソニックの「nanoe(以下ナノイー)」、そしてカー用品として人気が高いシャープの「プラズマクラスター」など車内用の高機能空気清浄機です。

パナソニックのナノイー、ナノイーXはトヨタ車やレクサスなど計39車種に搭載。三菱自動車、スズキなど主要メーカーにも実績がある(2019年10月末現在)さらにホンダ、スズキ、マツダ、スバルではオプションとしても採用

これまでナノイーをはじめとした空気清浄機の能力で注目していたのは、花粉症対策やPM2.5やアレルギー物質の抑制などに役立つから、と考えられたからだと思います。当然、この花粉の季節になると装備したとか、購入したという人たちが増えていくわけです。最近ではトヨタやレクサス、スバル、スズキ車などにもナノイー機能が搭載されたモデルが増えてきています。

しかし、今回の問題はコロナウィルスなどへの削減効果です。注目すべきはウイルスに対して空気清浄の力はどれほど有効か、ということですね。空気中には花粉、ダスト、PM2.5、細菌、ウイルス、そして揮発性化学物質などの浮遊物があるわけですが、こうした大きさの違う有害物質に対して、有効かどんな効果があるか? 中でもウイルスのサイズは100nm以下。マイクロで表すと0.1μm(マイクロメートル)以下ということですから、花粉やPM2.5、細菌などよりかなり小さいことになり、かなりやっかいだといわれています。

対してシャープは2004年の発表ですが、北里研究所メディカルセンター病院と共同で、コロナウイルス科に属するネココロナウイルス(新型コロナウイルスを示すものではありません)に対して、プラズマクラスターイオンによる不活化実証実験を実施。その結果、40分以内に99.7%を不活化、すなわちウィルスを破壊し、感染力を抑える働きがあることを実証した、とあります。一方のパナソニックも2012年、ナノイーが未知のウイルスに対しても抑制効果が期待できると発表しています。

もちろん、シャープもパナソニックも今回の新型コロナウイルスに対する効果、効能を公式に発表していませんから、確実な抑制効果については不明としか言えません。しかし「無いよりは確実に安心できる車内空間を作ること」は確かだと思います。

また車検などでエアコンの「クリーンエアコンフィルター」などの交換を行うことがあります。その場合、メーカーによっても違うのですが花粉のみに対応するものとか、場合によっては抗菌シート(不織布)、脱臭シート(粉末状特殊活性炭)、帯電シート(不織布)の3層構造になっていて、ウイルス、カビ、大腸菌などをカットするものまであります。

この場合、脱臭シートで臭いをブロックし、帯電シートで超微細な花粉、PM2.5、カビ、ホコリ、排気ガスを吸着することになっていますが、やはり通常品より少し高めで、約3倍ということも。例えばノーマルが3千円ならば1万円弱という感じでしょうか。

いまだにその正体も解明されず、ワクチンも特効薬も無い状態です。そして、こうした装備品は確実に高価になるとは思いますが、この未知のウイルスとの戦いに勝利するため、こうした空気清浄能力の高い装備に期待しながら注目したいと思います。

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