失業で実家にも帰れず彼のアルバイトで暮らす日々、30代カップルの不安は特別ではない

派遣として仕事をし、ギリギリの生活をしていた女性。そしてその恋人は劇団員で、芝居も稽古もできず飲食店のアルバイトもクビになり、肉体労働で稼ぐ日々。こんな30代のカップルは、他にもいるのではないでしょうか。


一緒に住みはじめたばかりで

何かしたくても今は動けなくて困っているというのは、エリナさん(33歳)です。今年2月半ば、アパートの更新があったので、つきあって半年ほどの彼の家に越して一緒に住み始めました。いつかは結婚したいと話し合った結果です。

「その直後のコロナ禍で、私は3月頭には派遣切りされました。彼は3月に所属している劇団の公演があるはずだったのですが、それも無期延期。同時期に飲食店のバイトも解雇されて、ふたりとも無職になってしまったんです」

3月下旬、彼は以前やっていたアルバイト先から声がかかり、引っ越しや解体などの肉体労働をかけ持ちするようになりました。

「アパート代から生活費まで、彼に何もかもめんどうをみてもらうような状態。それが心苦しくて……。ストレスがたまったんでしょうか、4月の頭にひどい腰痛で立てなくなり、緊急入院しました」

コロナウイルスではないかと疑ったが、結果は急性腎盂腎炎。細菌性の病気です。1週間ほどの入院で退院できましたが、免疫力が下がっているための罹患ですから、今後も気をつけるようにと医師に注意されました。

「恥ずかしい話ですが、私は貯金もほとんどなくて。入院費は親に連絡して振り込んでもらいました。コロナとは関係のない入院でも、今は面会すらできないんですよね。寂しい入院生活を送りながら、このままだと彼にも迷惑をかけるし、実家に帰ったほうがいいのかもしれないと思いました」

とはいえ、実家の両親は60代、さらに90代に手が届こうという祖父母も同居しています。実家を継いだ兄夫婦にはまだ小学生の子どももいるため、彼女は両親に「帰る」とは言えませんでした。

何かしなければ

つきあって1年にもならない彼に、さまざまな負担をかけてしまったことをエリナさんは謝りました。でも3歳年下の彼は、「オレががんばって働くから、しばらくゆっくりしてなよ」と励ましてくれたそう。

「でも彼がバイトに行くのも心配なんですよね。彼自身も気をつけているとはいえ、引っ越し作業や工事現場などは、どうしても人と密になりがち。黙って作業しているわけじゃなくて声も出しますしね。でも彼に養ってもらっている私が、そんな文句は言えない。それでも体力がなくなっている今、怖いのも本音」

彼は帰宅するとバスルームに直行、着ているものもすぐに洗濯するなど気を遣っています。

彼も彼女も収入が激減したので、国や自治体からのさまざまな給付金について今、必死で調べているところだそうです。

「つい先日、彼の実家からお米やレトルト食品、缶詰めなどが送られてきて一安心したところです。うちの実家からは野菜が届きました。あとは節約しながら、なるべく早く私も仕事を見つけないといけないと思っています」

こんな状態なので、とにかく「生活する」ことが優先、せっかく一緒に暮らし始めたのに甘い雰囲気はまったくないと彼女は言います。

お金の不安が…

「お金がない、先が見えないというのがこれほど不安だとは思いませんでした。彼が仕事に出ている昼間、家でじっとテレビを観ていると頭がおかしくなりそう。だからなるべく本を読んだりラジオを聞いたりして過ごしています」

同時に、これまでの人生を何度も何度も考え直しているそうです。もっと手に職をつければよかった、食いっぱぐれのない仕事につけばよかった、もっと勉強していい大学に行けばよかった、などなど。ただ、どういう人生を送っていても今のような状況では、いつ貧困に陥るかわかりません。

「それでも大企業に勤めていれば、今ほど困らなかった。実は私、大学を卒業して一部上場企業に就職したんです。でもあまりにもハードな職場環境だったのと人間関係で躓いたのとで5年で退職、それから派遣で働いてきました。結局、私には何もなかった。だからこんなことになっているんですよね」

そんなエリナさんを励ましてくれたのが、以前からごく稀に会う程度の“薄い”友だちだった彼でした。彼の芝居を観に行き、一緒に食事をしたり飲みに行ったりする関係になっていったのです。

「彼も30歳になって、本当にこのまま芝居をやっていていいのかとも悩んでいました。ふたりとも生き方に悩んでいるところへこんな状況になって……」

一緒にいるときはなるべく明るくふるまっているエリナさんですが、心底、今後のことを不安に感じています。それは彼も同じ。でもお互いに相手を心配させまいと、自分の苦しみは出さないようにしているそうです。

「いつか、あのときは大変だったよねと笑える日が来るのかどうか……」

エリナさんは消え入りそうな声でつぶやきました。

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