【特集】アフターコロナの地域戦略〜(2)国内観光はどう変わるのか?〜

前述のようなニーズに対応する観光サービスの姿を想像すると、今までと大きく変わっている面に気づく。これまで観光客に求められていたのは主に「非日常」だった。つまり日常では体験できない感覚や雰囲気をいかに味わえるかが、正に旅の醍醐味だったのだ。しかしアフターコロナ時代の観光に求められるのは、むしろ「異日常(いにちじょう)」と言うべきだろう。かつてなくストレスフルになった日常とは異なる、感染への心配が無い日常が味わいたいのだ。例えば旅先の特別な体験や景色などで「非日常」感に没入していても、一瞬でも「密」を感じてその不安が蘇れば台無しなのだ。この観光客の心理に対して、しばらくの間はかなり配慮が必要になるに違いない。
–実は「異日常」を観光に取り入れる考えは、ここ数年あちこちで議論されてきた。というのも、サステイナブルな地域づくりの観点からみた観光のあるべき姿を求める動きが起点となって、一見客からリピート客重視に変化し、必然的に長期滞在でゆっくり楽しんでもらう観光モデルの模索が始まっていたからだ。これは正に、交流人口から関係人口へ重心を移すことと同義だと言える。アフターコロナ時代の観光は、観光客との関係性をより中長期的なものにしていくことが極めて重要になってくるのだ。

そうなると、観光産業自体がますます地域が一体となって取り組むべきものになってくるといえるだろう。個々の観光施設や観光スポットだけの視点で顧客を捉えるのではなく、地域全体が「顧客思考」を持って面で対応することで、地域全体で迎える観光客を効果的に「関係人口化」することができる。
–時間とともに感染の拡大はある程度収束し、それほど遠くない時期に緊急事態宣言の解除が行われるだろう。それと同時に、観光業や飲食業など強烈なダメージを受けた業界に対し、国を上げた復興支援策が動き始めるだろう。観光需要喚起を目的とした「Go Toキャンペーン」と言われる事業に約1.7兆円もの予算を投じるという報道もされている。こうした事業に対しての期待は大きい。ただ、それを一時的な需要喚起だけに終わらせず、こうした対策を機会に来訪した観光客に対して、できれば地域の側で何かその「関係性」をつなぎとめる施策を講じたいものだ。具体的にどういう施策かは一概には言い難い。おそらくポイントは、単なる「お客様扱い」だけに終わらせず、何かしらその地域への「関わる」ための余地・余白を提供することだろう。地域側の活動やアイデア、場合によってはその苦労や紆余曲折を見せてもいいのかもしれない。旅行先として来訪した地域に、もしかしたら「自分も関われるかもしれない」と思わせられたら、しめたものだ。そうした施策を考えている地域は、確実に存在する。–厳しい状況は続くだろう。しかし一つだけ言えるのは、「観光・旅行」は決して無くなりはしないということだ。これは自論でもあるが、「食欲」などと同様に「旅欲」も人間の根本的な欲求であるはずで、今まさに私達はその渇望を強烈に感じている。それを本質的に突き詰めるための変化が、コロナショックによって極端に短時間で起こっているとも言える。激しすぎる変化は辛いのはもちろんだが、ここ数年各地で議論されてきたことを早急に実現するのだと覚悟を決めると、また違った景色が見えてくるかもしれない。

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