メルセデス・ベンツ 新型Gクラス「G350d」 試乗|新しい“G”にはディーゼルこそが相応しい

メルセデス・ベンツ 新型Gクラス「G350d」

“G”はただのオシャレアイテムにあらず

メルセデス・ベンツ 新型Gクラス「G350d」

港区あたりをすまし顔で流し、ゲレンデならぬアーバン・ヴァーゲンを気取るメルセデス・ベンツの“Gクラス”。芸能人御用達。ハイエンドなライフスタイルを演出する一台としてはテッパンの人気モデルだけに、私を含めた庶民派にはうがった見方をされがちなのだが、これがいざ乗ってみるとものすごくエンスーなクルマである。むしろGクラスをただの「背の高いベンツ」として購入するような人々は、その乗り味を少し古くさいと思うかもしれない。そして「鉄道」や「働くクルマ」が好きなアナタが乗ったら、思わず惚れてしまうに違いない。

そんなGクラスの魅力を、今回はお伝えしてみようと思う。

伝統的な味わいと個性を色濃く残しつつ現代化

メルセデス・ベンツ 新型Gクラス「G350d」

今回試乗したのは「G350d」。2018年に骨格までを刷新する大改良を行いながら、型式は従来通り「W463」型を継承する5代目Gクラスに、待望のディーゼルユニットを搭載したことが、今回のトピックである。

Gクラスのルーツが軍用のクロスカントリー4WD車だというのは語り尽くされた話。1979年に登場して以来、その姿を大きく変えることなく4代目まで延命し、「いくらなんでもそろそろ終了だろう」と誰もが思ったそのとき、メルセデスがこの5代目を登場させて話題をさらった。それも、Gクラスが持つ伝統的な味わいと個性を、色濃く残す形で現代化したのである。

メルセデス・ベンツ 新型Gクラス「G350d」

それもこれもGクラスの支持層が、その良さをきちんと理解していたから。表層的にはお洒落SUVとして人気のGクラスだが、メルセデスを動かすほどにその魅力は、ファンには理解されていたのである。

古めかしいドアノブのプッシュボタンを押して、Aピラーの取っ手を握りながらコクピットへ潜り込む。ドアを閉めると“ガシーン!”とドアがストライカーに咬み込む音が響いて、まず嬉しくなる。そして走り出すと、それより大きな“ガシャンッ!!”という音でドアロックが掛かり、一瞬ビクッとする。最新式でも、ゲレバは賑やかだ。

最高出力を41psアップさせた最新のクリーンディーゼルを搭載

メルセデス・ベンツ 新型Gクラス「G350d」
メルセデス・ベンツ 新型Gクラス「G350d」

さて今回の主役となるディーゼルターボ「OM656」は、メルセデスのフラッグシップであるSクラス、その「S400d」にも搭載される最新の実力派ユニットだ。

その排気量は3リッターで、最高出力は286PS/3400~4600rpm。最大トルクは600Nm/1200~3200rpmとなっている。

この数値は先代の350d(245PS/3600rpm、600Nm/1600~2400rpm)に対して最高出力にして41馬力もの向上を果たしているが、その高出力化は酸化触媒やマルチウェイ排出ガス再循環装置(EGR)の採用、二段構えのアドブルー噴射を用いること等で実現されている。

ディーゼルユニットは燃料を吹く(パワーを出す)ほどに煤(すす)を出し、燃焼効率を上げる(燃費を良くする)ほどに窒素酸化物(Nox)を出す面倒なユニット。それでも市場がモア・パワーを望むなら、高額な浄化装置を付けてでもクリーン・ディーゼル化への対処をする。これがプレミアムブランドの流儀である。

メルセデス・ベンツ 新型Gクラス「G350d」

非常にパワフルだが荒々しさは微塵も感じさせない

メルセデス・ベンツ 新型Gクラス「G350d」

ソフトにアクセルを踏み込んだだけで、2.5tのボディはスムーズに走り出す。

1200rpmという低い回転で600Nmもの最大トルクを発揮するエンジン特性には粗雑さがまったくなく、9速となったATのスマートなシフト制御によって、素早く速度を乗せて行く。それは実にしつけが行き届いた、上質な加速である。

出足におけるマナーの良さに感心しながらアクセルを踏み込むと、パワー感が着実に盛り上がって行った。

ただパンチ力という点においては、S400dほどの圧倒感はなかった。もちろんこれは、250kgにもなる車重の違いが大きく影響しているのだろう。単純に速さを求めるならばやはり、先行発売された「G63」(585PS)や、「G550」(422PS)の4リッターV8ツインターボを選ぶべきである。

しかしこの、トルクで走らせる実用的な粘り腰こそ、Gクラスのキャラクターには合っていると私は思う。

新型Gクラスのキャラクターにディーゼルがマッチする理由とは

メルセデス・ベンツ 新型Gクラス「G350d」

Gクラスは5代目へと生まれ変わる際に、大幅にオンロード性能を向上させた。その全てを書き連ねることはできないが、まずボディはひとまわり大きくなって、室内空間が本当に快適なものとなった。先代はコマンド・ジープ由来のタイト感がマニアックだったが、車体の割に室内空間はちょっと狭かったのだ。しかし新型では運転席と助手席の距離感が適切なものとなり、良い意味で室内が広くなった。

さらに足回りはフロントサスペンションがリジッドアクスルからダブルウィッシュボーン化され、ラダーフレームながらも快適な乗り心地と素直な回頭性を得た。またステアリングもラック・アンド・ピニオン式へと改められ、コーナーで切ったハンドルを自ら戻すような、ウォーム・アンド・ローラー式の独特な操作を強いられなくなった。

そんな本格クロカン4WDの性能と見た目を維持しながらも、その操作性をSUVの域にまで高めたGクラスには、今回のディーゼルエンジンがベストマッチだ。

ある意味“味わい”として乗り手が受け入れていた先代の、やや緩慢な操縦性とディーゼルユニットの組み合わせは、より冗長さを上乗せするようなところがあった。

しかしより現代的な扱いやすさを得たシャシーにディーゼルユニットを組み合わせることで、真の意味でG350dは穏やかなキャラクターを得たと思うのだ。

とはいえそのハイポジションな着座位置が織りなす運転は未だにアドベンチャー感が強く、これがなまくらに乗用車化されたのではないことは保証する。

“昔のクルマ”を現代の技術で復活させた稀有な実例

メルセデス・ベンツ 新型Gクラス「G350d」
メルセデス・ベンツ 新型Gクラス「G350d」

よくクルマ好きの間で、「昔のクルマを現代の技術で復活させたら最高なのに!」という話をするのだが、G350dはまさにこれを実践した一台だ。

スクエアなルックスはレトロ感たっぷりだが、LED化したヘッドライトがその印象を現代的に引き締める。さらに室内へと乗り込めば、現行メルセデスの標準様式である12.3インチモニターの二丁掛けが、フルデジタルな近未来感を演出する。

レトロな乗りものを未来的に仕上げる様は、ジブリやアキラの世界観である。一見するとその組み合わせはミスマッチに思えるが、だからこそ極端なギャップが最高にかっこいい。

こうした現代化がスポーツカーなどよりすんなりできたのも、Gクラスがクロスカントリー4WDだからだろう。サイズアップしても違和感がなく、駐車場問題以外ではこれが歓迎されるからだと思う。

そして何よりメルセデスが、長らくGクラスのキャラクターを守り抜いてきたからこそ、これが可能となったのである。

そんなGクラスにとって今回のクリーン・ディーゼルは、価格のバランスと共にベストマッチする。先代は7割以上のユーザーがG350dを選んだというが、新型でもそれは変わらないはずである。

[筆者:山田 弘樹/撮影:MOTA編集部]

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