中川勝彦は元祖ビジュアル系? Charとの出会いが生んだ隠れたロックの名盤 1987年 2月25日 中川勝彦のアルバム「MAJI-MAGIC」がリリースされた日

美しすぎるルックスに溢れる知性、中川翔子の父=中川勝彦

中川勝彦。今では中川翔子の父親と呼ぶほうが分かりやすいかもしれない。1984年シングル「してみたい」でデビューしたシンガー。ビジュアル系アーティストと呼ばれ、よく本田恭章と並んで女の子たちの人気を集めた。

私が知ったのは1986年のドラマ『白虎隊』だった。音楽だけでなく、俳優としても活躍していた彼が演じた新選組の沖田総司は、あまりにも美しくて思わず息をのんだ。その姿は、吐血してはかなく散っていく沖田総司そのものだった。

インタビュアーの質問にも、いつも知的な切り返しで答える慶応ボーイ(正しくは中退)。中性的な美しすぎるルックスに溢れる知性… 神様は一体、彼にどれほどのものを与えたんだろうかと、あまりにも人間離れした美しすぎる雰囲気に神々しさすら感じた。

漫画家のくらもちふさこ先生は、彼をモデルに作品を描いていたという逸話も残されている(※1)。そんな少女漫画の美少年なルックスとは裏腹に、テレビやラジオでは冗談ばかり口にして暴走したり、彼が愛した猫のようにくるくると表情を変えるお茶目で気さくなキャラクター。また、それがとても愛らしかった。

長い髪をかき上げながらの高音ボイス、溜息がでるほどすべてが美しい!

シングル「ナンシーChang!」「クール・ロマンティック」を歌い上げる独特な甘い声は “妖艶” という言葉がぴったり。長い髪をかき上げながら高音ボイスが揺れる。もう溜息がでるほどすべてが美しい。

ただ、実のところ、この頃、曲を聴けば聴くほど中川勝彦というアーティストがよく分からなくなるような感覚があった。どの作品も素晴らしいのだけれど、なぜだろう…「彼のやりたいことは本当にこれなのかな?」と疑問がわいて、彼自身不完全燃焼を抱えてもがいているようなイメージを勝手に感じたりした。

そして、1986年シングル「fromシンデレラ」をリリース。レコード盤に針を落とした時の衝撃を私はきっと永遠に忘れない。そこには今までのイメージとは一変してゴリゴリのロックサウンドに、これまでため込んできたであろうエネルギーを一気に爆発させてシャウトする彼の姿があった。一体、何が起きたのだろうと、レコード盤の歌詞カードに手がかりを探すと、そこには「Produce&ギター Char」の文字が記されていた。

Charとの出会いが生んだロックバンド MAJI-MAGIC 結成

もともと中川は高校時代にバンドを組んでいたロック少年だった。そんな彼だからギタリストCharとの出会いは、音楽人生を大きく変える転機になったと思う。当時、テレビ番組で「音楽の仲間と出会えたことが何より嬉しい」と充実感を語っていた。「fromシンデレラ」でCharとの共演を果たすと、クリスマスソング「ラスト・ウィッシュ-同じ色のクリスマス」でも見事なコラボを見せる。

そして、1987年には共にバンド MAJI-MAGIC を組み、同名のアルバム『MAJI-MAGIC』をリリース。メンバーはChar(g)、鈴木享明(b)、国府輝幸(key)、柏原克己(ds)… というそうそうたる顔ぶれ。ちなみに、Special thanks にはCharの息子で当時7歳の JESSE の名前も刻まれていて、RIZE ファンは要チェック。

いやー、もうこのアルバム最高なんですよ。Charのクールなギターが美しくうねり、そこに中川の力強い高音ボイスが混ざり合って、超ロックしてるんです。かっこいいんです。何より中川が本当に楽しそうで、音楽小僧の初期衝動が詰まっているような仕上がりは鳥肌もの。Charとの作品を通して、「やっとやりたかったことを見つけたんだなぁ」と、聴いているこちら側にも伝わってきてとても嬉しかった。

父の曲を歌うしょこたん、引き継がれていく中川勝彦が残したもの

1994年、それはテレビから聞こえてきた―― 中川勝彦 死去。頭が真っ白になった。32歳という若さで、白血病で旅立ってしまうなんて…「かっちゃんがあまりにも素敵だったから、神さまがそばに置いておきたいと連れて行ってしまったのかな」なんて本気で思って、本気で何度も泣いた。もっとかっちゃんのロックする姿、シャウトする歌声を聴きたかったと今でも思う。

自分が32歳になった時はかっちゃんの年齢を追い越すようでなんとも言えない気持ちになった。後に彼の愛娘・中川翔子さんが現れたことはとても嬉しいサプライズだった。病床でも得意の絵を描き、絵本を仕上げて旅立っていったかっちゃんの血がしっかりとしょこたんに繋がっていたし、父の曲を歌う姿からも中川勝彦が残したものが今に引き継がれていくのを感じて胸が熱くなった。これからも、かっちゃんは永遠に私たちの心の中でシャウトし続ける。とても楽しそうに。いつものくしゃくしゃの笑顔で。

編集部注:本文にあります、くらもちふさこ先生の作品については、カタリベ・親王塚リカさんのコラム『恋の相手は田原俊彦? くらもちふさこ「ハリウッド・ゲーム」と中2プレイリスト』に詳しいので、こちらも是非ご覧ください

カタリベ: 村上あやの

© Reminder LLC