中国の若者が「熱狂」 ソニーも出資で白熱する動画市場

中国のオンライン動画のユーザー数(ショート動画を含む)はここ数年、急速に増加しています。2019年のユーザー数は8.5億人に達し、2018年から1.5億人増加。また、新型コロナウイルスの流行も、中国の動画市場の成長を後押ししたと考えられます。

中国では「テンセント・ビデオ」、アリババ傘下の「優酷土豆」、百度傘下の「愛奇芸」(IQ)が三大動画サイトと言われています。ただ、中国で動画配信業界は「レッドオーシャン」で、新たな企業が次々と誕生しています。

そうした中、2018年3月に米ナスダック市場に上場した中国最大のACG(Anime Comic Games:アニメ・コミック・ゲーム)系動画サイトの「ビリビリ」(BILI)には投資妙味があるとみています。


ソニーが資本参加したワケ

その理由の一つとして、「ビリビリ」の戦略的投資家リストに中国IT大手のテンセントやアリババだけでなく、2020年4月に日本のソニーが加わった事が挙げられます。ソニーは2016年から「ビリビリ」を通じて、日本国内でも人気が高いモバイルゲームやアニメ作品を中国に提供してきました。

ソニーは今回、4億ドル(約430億円)の出資を通じて、これまでの協業体制を一段と強化し、ゲームのほかアニメなどの配信に「ビリビリ」のプラットフォームを活用する計画です。その背景には、中国の「動漫(アニメ・漫画)市場は今後もビジネスとしての発展余地が大きく、業績拡大に寄与する可能性があるからだと思います。

拡大が続く中国の「動漫」市場

中国の「動漫(アニメ・漫画)」の市場規模は年々拡大しており、2019年の市場規模は前年比13.4%増の1,941億元(日本円で約3兆円)と二桁成長を続けています。その中でも、中国の若者世代の間では、日本のアニメ・漫画の人気が高いとの指摘は以前からありました(陳奇佳 宋暉『日本動漫影響力調査報告』人民出版社、2009年)。

こうした傾向は現在も継続しているのは、日本のアニメ・漫画文化から派生した「コスプレ」が中国でも大人気になっていることからもわかります。中国の「コスプレーヤー」の中には、日本のアニメを見て日本語を勉強したという人も少なくありません。

こうした背景もあり、「ビリビリ」のアニメ動画サイトには「名探偵コナン」、「鋼の錬金術師」、「ジョジョの奇妙な冒険」や「鬼滅の刃」など日本でも人気の作品を多く見かけます。また、人気アイドルグループ「乃木坂46」の松村沙友里さんも、中国料理を通じて中国語を学ぶ異色の料理番組「沙友理的爱吃厨房」を「ビリビリ」動画で配信しています。このようにサブカルチャー分野で「ビリビリ」は新たな領域を切り開き、独自の進化を遂げています。

さらに同サービスは、「ニコニコ動画」のように動画にコメントを書き込める点に特徴があります。画面に弾幕のように流れるコメントを見ながら、動画を楽しむスタイルが、中国の若者世代を中心に、人気を博している点も見逃せません。

「Z世代」を中心にユーザー数が急増

「ビリビリ」は「Z世代」と呼ばれる1995年以降に生まれの中国の若者世代から多くの支持を集めています。ユーザーの75%が24歳以下で、2019年10~12月期の月間アクティブユーザー数(MAU)は前年同期比40%増の約1億3,000万人と大幅に伸びています。

日本のサブカルチャー関連のコンテンツ強化は、新たなユーザーの獲得のほか、競合他社との「製品差別化」を図る狙いもあると思います。そうした中、同社の株価は4月中旬に上場来高値を更新。年初から2020年4月30日までの株価上昇率も約5割に達しています。
一方、この業界では時折、政府当局による調査が入る点はリスクとして挙げられます。4月中旬に江蘇省政府は、「ビリビリ」のほか、SNS系ショート動画サイト「抖音(海外版TikTok)や快手(海外版Kwai)」など18の人気アプリを調査。

子供の視聴する内容などを制限する「青少年モード」が形骸化しているとの見地から、各運営会社にきちんと管理すべきであると指摘しています。こうした材料は一時的に株価の下押し要因になりますが、逆説的には、中国の若者世代の「熱狂」ぶりを反映しているとも言えるでしょう。

<文:市場情報部 佐藤一樹>

© 株式会社マネーフォワード