<ブレーク盤>ウォルピスカーター『40果実の木』主人公の気持ちリアルに

 動画サイトにて超絶な高音で歌いまくる男性の4thアルバム。最近では、国内で『泥中に咲く』が配信サイトでロングヒットしたり、中国で配信アルバムが支持されたり、と着実に人気が広がっている。

 本編は全11曲オリジナル曲で構成。うち7曲は本人作詞で、「もっともっと高く」と疾走感あふれる『Colors』や、悲鳴にも似た高音で叫ぶ『マキナの祈り』、爆発寸前の恋心をポップロックに乗せた『斜めがけ前線』など、これまで以上に主人公の気持ちがリアル。特に、ミディアム調で自分にエールを贈った『ありきたりなさよなら』は、Every Little Thingにも似た爽快さがあり、多くのJ-POPファンにも広がりそうだ。

 他方、ボーカルに専念した楽曲も良い味を出している。『REVE』は、彼の高音だからこそ前進したい気持ちで満ちているし、『雨子』は穏やかな曲調や歌声から少年期のあどけなさが思い浮かぶ。はるまきごはんとデュエットした『1%』では、飾り気のない中高音の歌声や優しく寄り添うハモリから、平和な日常が感じられる。それとは対照的に、11曲目のハードポップ調『徒花の涙』はヒリヒリするほど孤独を直視した言葉と彼の超高音の相性も抜群。明らかに過去最高にバラエティー豊かな作品だ。

 初回盤では、動画サイトで人気の4曲をカバーするという、いわば活動原点のスタイルを継続。ラストの『アザレアの亡霊』は機械に打ち克つほどの高音と力強さで圧倒される。本作を聴けば、より視野を広げることで、元々持っていた能力がさらに強靭になることを認識するはず。

(日本コロムビア・2CD初回限定盤 2700円+税)=臼井孝

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