古里に生きる 平戸を支える若者たち<1> イチゴ農家 福井鉄也さん(29) 父が築いた土台を守る

特産のイチゴ「ゆめのか」を収穫中の福井さん。「収量をさらに安定させ、平戸の農業に貢献したい」=平戸市大山町

 人口減や過疎化が進む長崎県平戸市。高校卒業後、多くの生徒が地元を離れる中で、地域に根を張る若者がいる。古里を未来につなごうと奮闘する4人を紹介する。

 午前4時半、市北部の大山地区。闇の中に約33アールのビニールハウスの光が浮かび上がる。特産のイチゴ「ゆめのか」の実を傷つけないように優しく摘み取っていく。腰をかがめる姿勢はとてもきついが、自慢のイチゴを味わってほしいという気持ちが勝る。大粒で甘いイチゴは市場で250グラム入り1パック250~500円で取引され、地元でも好評だ。
 父の宏さんは、出荷量も品質も安定し、後輩からも頼りにされたイチゴ農家。その背中を追い掛けたいと就農を決め2009年春、県立農業大学校に進んだ。この年、北松農業高を巣立った141人のうち、県内で就職、進学したのは57人だった。
 大学校卒業後の12年、父と一緒に働き始めた。ハウスの中でも外でも、父の言動は生きた教科書。もっと学びたいと思っていた18年、父が急逝した。56歳だった。途方に暮れたが、困ったときは今も、父の記憶からヒントを探している。
 成長を調整する電照の時間や温度管理。自分の判断一つで収量が決まってくる。失敗したこともあったが、結果が出ると自信が芽生え、おもしろさも分かってきた。
 平戸のイチゴ生産農家は28戸。18年度産の出荷量は214.2トンと県内19産地中10位だが、1戸当たりの年間売上高は約1100万円。同じ市の振興品目である子牛(約477万円)やアスパラガス(約199万円)に比べても、ずばぬけて高い。
 やればやるほど、結果が出せる。父の世代が土台を築いてくれたおかげだ。今年の収穫目標は5万パック。やり遂げることが父や地域への恩返しと信じている。

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