北九州にすんごい居抜き物件を発見 ラブホテルかと思ったら、そこはパン屋だった!

筆者撮影

リーマンショック以降、不景気のあおりを受けて設備投資を安く抑え開業する店が増えた。その方法のひとつに「居抜き」という方法がある。前の店の内装や設備を全て、または部分的にそのまま使うものだ。経営者としては、開業資金が安く抑えられる利点がある一方で、私のようなトンチキなものが好きな人間にとっては、違和感のあるお店が増えてとても楽しい。

以前、この連載でも紹介した、銭湯の居抜きで開業したカレー店などがまさにそのひとつ。今回はそれに勝るとも劣らない居抜き物件をご紹介する。

北九州市小倉南区、JR 日豊本線の下曽根駅ちかく。幹線道路からちょっと入ったところに、ラブホテルみたいな建物がある。ラブホテルといえばギラギラネオンの店と、郊外のモーテルのようなひっそりとした外観の店があるが、こちらは後者。

部屋の全てが、通りに対して背を向けるようなつくりになっている建物だ。

しかし、ここに近寄ってみると「パン」と書いたのぼり。そう、ラブホテルのように見えるここ実はパン屋なのだ。

2006年まで、この地区には北九州空港があった。全国のおおくの場所で高速道路のインター付近や、空港の近くにラブホテルが林立するように、このあたりにもいくつかのホテルが営業していた。そのうちの一軒で、ここは元々「ホテル空港」という名の店だったが、空港がなくなると利用者も右肩下がりとなり、そこへ不況の波も押し寄せ閉業。

もともとパンを焼くのが趣味だったオーナーが、建物はそのままにパン屋をはじめたというのが、この不思議な居抜き物件の成り立ちだ。

敷地内は、郊外のモーテルそのもので、部屋ごとに一台分の駐車場がついているつくり。そこは、お客さん用の駐車場になっていて、一角に「momoのパン屋」とかかれた看板がかかっている。それは、通りからは見えない場所に掲げられているため、ここを目指して来ない限りたどり着くのは難しい。

これだけヘンテコではあるが、パンの美味しさは本物だ。それもそもはず、オーナーはピザ窯まで自作するほどのこだわりをもった人物。惣菜パンから菓子パンまでどれも美味しい。さらにいまでは、60人以上の生徒さんを抱える人気のパン教室もやっている。平日の昼過ぎに近所の主婦たちが、ラブホテル然とした建物にどんどん入っていく様子は、なかなかの光景だ。

ラブホテル時代を彷彿とさせる、こんな冗談のようなパンもつくるオーナーの店。

パン屋に入るのに、わずかな後ろめたさを感じるけれど、それを乗り越えたら美味しいパンに出会える、素晴らしい居抜き物件だ。(Mr.tsubaking連載 『どうした!?ウォーカー』 第57回)

© TABLO