「ピンチをチャンスに」 コロナ後見据え提言 ながさき地域政策研・菊森理事長

菊森氏の提言のポイント

 長崎県など出資の地方シンクタンク、ながさき地域政策研究所(長崎市)の菊森淳文理事長は、新型コロナウイルスの感染拡大が長崎県に与えた影響を分析し、収束後の対策の方向性などを検討した提言書をまとめた。感染防止のための移動制約や経済活動の停滞に伴い、6月までに一定収束した場合でも観光業を中心に損害が大きいとして影響額を予測。立て直しに向けては、情報通信技術(ICT)の進展の加速化や、感染症発生を前提にした社会の形成など、コロナ後の変革への対応が重要だと指摘している。

 同研究所のホームページで、週明けにも全文を公表する。長崎新聞の取材に菊森氏は「重要なのは『ピンチはチャンスに変えられる』ということ。コロナ禍は、長崎県が遅れている分野の進化や、世代交代といったイノベーション(技術革新)を起こす一つのきっかけになり得る」と話す。
 提言書は10ページ。影響については国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し(4月)、直近の長崎県の実績などを基に概算。コロナ禍が6月までに収束した場合、観光関連は日帰り旅行の回復が早い半面、遠方からの国内旅行は急速には回復せず、インバウンド(訪日客)回復にも1年程度かかると予測。長崎県の観光消費額は4~12月で1425億円減と見込んだ。
 観光ほど影響が長引かないものの、製造業の生産額も4~6月で975億円減と予測。観光関連、製造業を合わせて、県内総生産4兆6千億円(2018年)の5.2%に当たる計2400億円減との見通し。収束の遅れや第2波到来、「新しい生活様式」の浸透などで、影響が大きくなる可能性もあるとした。
 また、コロナ後の変化に対応する中長期的対策が、長崎県にとって重要と強調。革新的なデジタル技術を社会の課題解決に生かす政府の成長戦略「ソサエティー5.0」の進展が、遠隔診断やオンライン会議といったリモート化対応の浸透を機に加速すると予測し、今回のコロナ禍のような事態に備えて長崎県でも急速に進める必要があるとした。
 経済、産業面では中小企業の売り上げ減、経営難に対する各種支援が急務と指摘。企業経営においても、先端技術の導入や社会の変化に合わせた業態転換、経営基盤強化、次世代への承継が必要とした。
 これらの予測や考察を基に、長崎県が取り組むべき具体策を列挙。▽人口分散を見込んだ移住受け入れの促進▽「近距離間観光」の模索▽造船業振興に向けた「病院船」「災害救助船」の製造検討-などを提案している。

菊森淳文氏

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