コロナ禍を家事協働の契機に 幸福度上げる料理・子育て

By 江刺昭子

日が暮れた公園で遊ぶ親子。普段は外出を控え、人がいない時間を見計らって久々に訪れたという

 東京近郊の大学がある町に住んでいるが、緊急事態宣言が出て以降、町の風景が一変した。学生の姿が消え、全体がシーンとしている。

 ところが、平日のスーパーマーケットに働き盛りの年代の男性たちが行列を作り、公園では父親と子どもが遊んだりジョギングしたりしている。自粛とテレワーク、学校の休校が生んだ光景に違いない。

 コロナ禍が終息したら、社会のさまざまな局面が変化すると言われている。その一つは働き方なのではないか。業態にもよるが一定程度、テレワークが定着しそうだ。そうすると、必然的に男性たちの家庭滞在時間が増える。それを機に、新しい生活スタイルが生まれる可能性がある。それを希望と捉えたい。(女性史研究者・江刺昭子)

 共働き世帯の数が、専業主婦世帯を上回って20年以上になる。夫婦が家計を対等に支えるのであれば、家事・育児も協働して当然なのに、依然として女性の負担が大きい。諸外国に比べ、日本の男性が家事・育児に関わる時間は圧倒的に少ない。それが女性の社会進出の足かせになっていると指摘されながら、なかなか改善しない。

 大きな理由は、賃金や待遇の男女格差など社会の仕組みにあるが、人々の、特に男性サイドの意識の遅れも足を引っ張っている。女性は働いていても、家事や育児や介護を担ってきた。その生活スタイルをパートナーの男性も共にすることで、男性自身の幸福度も上がるはずだ。

 政府の「少子化社会対策大綱」は、今年が5年ごとの見直しの年に当たる。内閣府が5月2日に原案を公表、5月中に閣議決定するという。原案は冒頭、昨年の出生数が90万人を割り込んで過去最少の86万4千人となったことを「86万人ショック」と表現し、数値目標として「希望出生率1.8」(2018年は1・42)を掲げた。

 少子化を「国民共通の困難」と位置づけ「真っ正面から立ち向かう」として、重点目標の一つに多子世帯への支援を挙げたが、太平洋戦争開始直前に閣議決定した「人口政策確立要綱」の「産めよ、殖やせよ」政策を想起させる。このときは「1家庭で平均5人の子どもを持つように」と奨励した。

 一方で大綱原案は、男性の育児休業取得率30%を目指すとする。だが、萩生田光一文科相が自民党の幹事長代行だった2年前、講演で次のように言い放ったことを忘れてはならない。

 「赤ちゃんにパパとママ、どっちが好きかと聞けば、どう考えたってママがいいに決まっている」「男も育児だとか言っても、子どもには迷惑な話かもしれない」

 外国からも驚きの声があがった。こんな考えの人が政権中枢にいては、原案が示す目標の達成はおぼつかないだろう。

 それよりは男性自身が、日本的な働き方の非人間性に気づき、より豊かな人生を目指して、自らのライフスタイルをデザインし直すことが大事だ。そのチャンスが今回の奇禍で巡ってきた。

 家事・育児を「手伝う、協力する、サポートする」というレベルではなく、人として生きていく上で当たり前のこととして、男女関係なく、仕事を持つ持たないに関わりなく、日常に組み込みたい。

 今回、家庭滞在時間が長くなった男性の中には、女性任せにしていた家事・育児の楽しさに気づいた人も多いのではないか。

 料理は計量し、混合し、冷却し、加熱するから、物理や化学と重なる。工夫の余地も大きく、要領よく進める手順を見つけることは、業務の合理的な遂行を考えることに通じる。何より「おいしい」と言って食べてくれる家族の顔を見るのは、仕事の達成感とは別次元の喜びだ。

自宅近くを散歩中に水と戯れる父親と子ども

 子どもとの会話にも発見があるはずだ。素朴な質問の答えを探すことで、多様な視点や価値観があることに気づけば、職場の人間関係や業務の相手方との関係も円滑になるだろう。子育ては大変と感じることもあるが、子どもの成長を見守る充実感は何ものにも代えがたい。男性が共有しないのは、もったいない。

 余裕ができれば、趣味を持つのもいいだろうし、地域デビューもお勧めだ。PTA活動や地域の催しに積極的に参加すれば、会社だけの人間関係ではない、異業種や異年齢間のネットワークが広がる。そうすれば、定年後にやりがいを喪失してうつになったりすることもない。

 女性の考えも変わってきている。専業主婦が多かった時代の女性が結婚相手に求める条件は「3高」、高学歴・高収入・高身長と言われたが、2018年のJCBの調査によれば、現代の働く女性が男性に求めているのは、家事力・育児力がトップという。

 ここで問題になるのが、世代間ギャップだ。今の若い男性は「給料はそこそこでいい」「仕事を終えてからの飲み会にはつきあいたくない」「休日返上の接待ゴルフなんてとんでもない」という人が多くなったという。かつて盛んだった社員旅行がほぼ消滅したのも、参加者が減ったからだ。

 これに対して、古い世代の経営者や管理職は「男は仕事してなんぼ」「出世してなんぼ」という考えから抜け出せないでいる人が多い。数年前まで社員に「死ぬまで働け」という理念を示していた企業があった。「取り組んだら殺されても(その仕事を)放すな」という会社では、社員が過労自殺した。人を人とも思わないこんな経営者にはさっさと退場してもらおう。

 そうして、女性も男性もワークライフバランスを大切にすれば、お互いを認め合い、高め合う社会に近づいていけるのではないか。

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