【新型コロナ】水没した美術品、早く修復したいのに… コロナで活動停滞

収蔵品を保管していたコンテナからの水抜き作業=川崎市提供

 昨年の台風19号により、地下収蔵庫内の収蔵品が甚大な被害を受けた川崎市市民ミュージアム(同市中原区)は、文化庁の指導で外部支援団体と共に収蔵品レスキューに取り組んできた。九つの収蔵庫全てが浸水したため優先順位を決めてレスキューを行っている。本年度内に全品の応急処置を目指すが、新型コロナウイルス対策のため4月以降の活動が滞るなど、修復作業にも影響が出ている。

 4月3日現在で、支援に関わったのは文化遺産防災ネットワーク推進会議に所属する10団体と神奈川県博物館協会などの計14団体。人員は指定管理者や市職員、外部支援団体の延べ約4500人に上る。同ネットワーク推進会議は、東日本大震災後の文化財レスキューの経験を生かして設立されたものだ。

 収蔵品約22万9千点のうち、72%に当たる約16万5千点が収蔵庫から搬出済み。収蔵品にはかびが発生しており、応急処置として洗浄や乾燥、防かびや害虫駆除のための薬品による薫蒸などを行っている。古文書などの紙資料は、かびの増殖を防ぐために冷凍保管されている。

 こうした作業は、敷地内の広場に設置した仮設ユニットハウスや冷蔵・冷凍コンテナなどで行っている。作業時の写真からは、防護服を着用している様子が分かる。レスキューに何度か参加しているという県内のある美術館の学芸員は、人体に害のあるかびの存在や強烈な臭いといったかび被害のひどさを口にした。

 応急処置を終えると専門家らが修復方法や期間、費用を確認し、修復作業ができるかどうかを判断する。

 収蔵品の中で保険評価額が7800万円と最も高い日本画家・安田靫彦の「草薙の剣」はかびやしわが発生していたが、応急処置を終えて修復前の調査に入っている。

 県や市の指定文化財は修復が進んでおり、県指定重要文化財「鰐口(わにぐち)(春日神社)」や、市重要歴史記念物「紙本墨画淡彩(しほんぼくがたんさい)仙女図(2幅)」などは修復済みだ。

 計画では本年度中に全品の応急処置を終了し、修復作業を行っていく予定だが、市の担当者は「新型コロナウイルス対策のため、各支援団体が4月以降の活動を見合わせざるを得ない状況となっており、現場で直接の支援をいただけない状況となっている」と話し、難しい状況だ。

 また、かびの除去作業に使用する専用クリーナーのフィルター等の輸入が滞っており、入手困難という悩みもある。

 修復に向けて呼び掛けたふるさと応援寄付金には今年3月末時点で、167件、約308万円が寄せられた。

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