音楽家、ミニシアター経営者、飲食店、アパレル店、セックスワーカー…。コロナで生活破壊に直面する業種のSOSが聞こえますか? 市民団体が記者会見で訴え

5月7日。東京都港区のライブハウス「青山月見ル君想フ」で市民団体「Save Our Space」(以下、SOS)が主催した記者会見「それぞれのSave Our Life 〜命と仕事を守ろう〜」は、11時から17時まで、新型コロナウイルスで生活破壊に直面する20人以上の生の声で溢れた。

Save Our Spaceの篠田ミルさん(音楽家)(c)Kashida Hideki

 

「4月7日の緊急事態宣言以来、売り上げは前年比でマイナス90%です」(ライブハウス経営者)

「非正規の私は雑所得で確定申告したので持続化給付金を受け取れません」(非常勤講師)

「億単位の借金をしました」(アパレル店経営者)

「休業要請の対象外だけど、外出自粛のあおりで収益が62%減。職員が離職すれば、誰が障がい児と向き合うのか」(障がい児通所施設)

国からの補償がないため、救われない人たちが当たり前のように蔓延する事実に、私はある意味恐ろしさを覚えた。

左から、逢坂誠二議員(立憲民主党)、安藤裕議員(自民党)、小池晃議員(共産党 ) (c)Kashida Hideki

主催者の一人、スガナミユウさんによると、2月26日の安倍首相による「多数が集まるような文化イベント等」への自粛要請が出されると、ライブハウスや映画館、劇場などでは公演中止や延期が相次ぎ、休業に追い込まれた。3月、「このままでは廃業だ」との危機感を共有したこれら事業者がSOSを結成する。

国は無策ではない。金銭支援として、特別定額給付金(一人10万円一律給付)、中小事業者への持続化給付金(最大200万円)、労働者への休業補償を国が助成する雇用調整助成金などを用意はした。だが多くの事業者には焼け石に水だ。さらに制度から漏れる人もいる。

日本共産党の小池晃議員 (c)Kashida Hideki

 

スガナミさんはその一人。長年ライブハウスの従業員として働き、念願叶い、今年4月1日に自身のライブハウス「LIVE HAUS」のオープンにこぎつけた。だがすでに営業できる状況にはなく、4月7日に緊急事態宣言が出されると開店休業に追い込まれた。

「スタッフをクビにせず、家賃も払う。今、月350万円の固定経費が消えるだけで、このままでは潰れます。事業者がもらえる持続化給付金にしたって、前年同月比で売り上げ50%以下が条件で、今年開店したLIVE HAUSは対象外。また雇用調整助成金にしたって、やはり前年同月比の数字が必要なので対象外です」

文化施設の経営者たち。向かって右から鈴木将さん(ライブハウス「クラブ・エイジア」店長)、北條誠人さん(ミニシアター「ユーロスペース」経営者)、中津留章仁さん(劇団TRASHMASTERS主宰)。このままでは数カ月ももたないと訴える。 (c)Kshida Hideki

この差し迫った危機感はスガナミさんだけのものではない。

鈴木将さん(カルチャー・オブ・エイジアスペース営業部長)は4つのライブハウスを経営していたが、4月7日に緊急事態宣言や休業要請もあり、4月は仕事ゼロになり、5月末に3店舗を閉店する。固定費が払えないからだ。

中津留章仁さんが主宰する劇団TRASHMASUTERSは、3月の時点で公演の入りが半分になった。

「どんなに小さい劇団も、公演をキャンセルすると劇場へのキャンセル料が数百万円も発生します。SOSでは救済を文化庁に要請しましたが、ゼロ回答です」

笑えるナースコミュニティFunnyの東さゆりさん(右)と秋吉崇博さん。看護師である東さんは、医療従事者は今、自分が感染しないか、家族が感染しないかの恐怖と、周囲の偏見と闘っていると訴えた。(c)Kashida Hideki

SOSは、3月27日からインターネット上で、家賃や人件費の助成を国や自治体に求める「文化・芸術施設への助成金求める」署名活動を開始。すると、署名はわずか4日間で30万筆以上を集めた。次に、SOSは「困っているのは他業種も同じだ」と意識し、4月下旬、考えられる限りの業界に声をかけ、一緒にアピールをと訴えた。

果たしてわずか1週間後の5月7日、以下の職種の労働者や事業者が「青山月見ル君想フ」に集まったのだ。

◇音楽家 ◇ミニシアター経営者 ◇劇団主宰者 ◇ライブハウス経営者 ◇飲食店 ◇アパレル店 ◇美容室 ◇看護師 ◇保育士 ◇障がい児通所施設 ◇日本水商売協会 ◇セックスワーカー ◇入管問題を扱う市民団体 ◇商店街 ◇国会議員等々

げいまきまきさん。元セックスワーカーであり、現在はSWASH(セックスワーカーの労働と健康を応援する団体)のメンバーとして活動するが、コロナ禍でも一時は休業補償の対象外とされるなどの差別を実感したうえでこう発言した。「セックスワーカーは仕事です! どんな仕事にも人権があります! ウイルスは仕事を選ばないのに、なぜ救済される人とされない人とに分けられるのか」(c)Kashida Hideki

私が記者会見に参加しようと思った理由は、これら事業者の生の声を聞きたかったことと、自民党の安藤裕衆議院議員の参加があったからだ。安藤議員が代表を務める自民党内の議員連盟「日本の未来を考える勉強会」(以下、勉強会)は4月30日、「国民を守るための『真水100兆円』」と題した令和2年度第2次補正予算編成に向けた提言を出した。そこには「真水100兆円」の他にも「消費税ゼロ」が盛り込まれ、国は国民を救うべきだとのまっとうな訴えがあるのだ。

記者会見のトップバッターとして、3人の国会議員――逢坂誠二議員(立憲)、安藤議員、小池晃議員(共産)――が同時に登壇したが、安藤議員の言葉には危機感が溢れていた。

「2020年の日本経済は、2008年のリーマンショックどころか、1933年の昭和大恐慌並みの危機を迎えます。非常時だからこその対策を実施すべきです」

安藤議員はキリのいい数字として100兆円を出したのではない。根拠がある。

たとえば、持続化給付金の予算はわずかに2兆円。対象は、「事業収入」で確定申告をした中小事業者で、前年同月比の売り上げが50%以下であること。給付額は最大200万円(個人事業者は100万円)。だが、安藤議員は「それではとても足りない」として、「全業種対象」「条件緩和」「給付額の増額」「複数回給付」で50兆円は必要だと訴える。

「2018年の中小企業の粗利(売上高から仕入原価を除いた利益)は21兆円。そして今回、中小企業の収益が30%減ると26兆円の損失が出ます。この損失と2018年程度の粗利補償を合わせると約50兆円必要です」

提言は、他にも、中小企業に対する政府保証による資本注入に10兆円、医療や介護の支援(危険手当、コロナ軽症者の宿泊施設借り上げなど)に5兆円、特別定額給付金の複数回給付に26兆円などに及ぶ。

だが、100兆円もの国債発行でインフラは発生しないか? 安藤議員は「ありえない」と断言する。というのは、財務省のホームページでも「自国通貨建て国債のデフォルト(破綻)は考えられない」「ハイパーインフレの可能性はゼロに等しい」と明記されているからだ。加えて、日本銀行も4月27日の金融政策決定会合で、コロナ不況に対応する追加金融緩和として国債購入に上限を設定しないと決定した。

「つまり、真水を入れる準備は整った。あとは政府の覚悟だけです」(安藤議員)

曾田洋平さん(飲み屋 えるえふる経営者)は同業者にアンケートを取り、回答40件のうち半数弱が1年ももたないと回答したことを示した。(c)Kashida Hideki

伝え聞くところによると、党内では安藤議員を冷ややかに見る目があるようだが、本人にまったくぶれる姿勢はない。安藤議員の5月16日のツイッターによれば、勉強会の提言は、高鳥修一自民党筆頭副幹事長(総裁特別補佐)から安倍首相に伝えられたとのこと。また、提言への自民党内賛同者も80名を超えたそうだ。続報を待ちたい。

安藤議員のあとにマイクをもった小池議員は開口一番「安藤さんには100%賛成する」と発言した。

「自民党の安藤さんと共産党の私とが賛成することが実現できない最大の抵抗要因は首相官邸と役所です。緊急事態なのに平常時の感覚で対処するから、支援が薄いうえに遅い。命を守るための金は惜しみなく使うべき。1社たりとも潰してはいけません」

そして、私の「この問題解決に向けての与野党共闘はあり得るのか」との質問に対して、小池議員は「新しい政治の形ができるかもしれない」との期待を匂わせた。

この言葉もそうだが、私がこの記者会見で得た収穫があるとすれば、それは、単に今起きている問題の解決だけではなく、「コロナ収束以後」の世界を見据えている登壇者もいたことだった。

スガナミユウさん(ライブハウス LIVE HAUS経営者)は「今日、ここに集まった人たちは一丸とならなくてもいい。それぞれがそれぞれの場所にまた戻って、それぞれの声を上げてほしい。コロナ収束後の未来に続く支援を求めていきましょう」と記者会見を閉めた。(C) KashidaHideki

ビデオメッセージでの参加となった奥田知志さん(NPO抱樸理事長)は長年、野外生活者や生活困窮者の支援に取り組んでいるが、こんな問題提起をした。

「今私たちが見ているのはコロナ禍に加えて社会の脆弱性です。たとえば、30年前には労働者の85%が正社員だったのに、今では非正規は40%もいる。この人たちはコロナ禍で失業の危機に面している。コロナが収束したら、みなさんはあの日に帰りたいでしょうか? あの日に戻るのはいいことなのか? 今回のコロナ禍は新しい社会をつくるチャンスでもあるのです」

SOSの篠田ミルさん(音楽家)もまったく同じ提起をする。

「今、私たちが直面するのは、コロナ以前に黙殺してきた問題が極限化していることです。だから、今が変革のチャンスです。それこそが私たちの社会を前進させます。私たちは、Stay Homeという一見やさしい言葉に騙されてはいけません。今、この社会に必要なのは、それぞれが声をあげ、そしてそれを黙殺することなく、社会全体で拾い上げて向き合っていく覚悟です」

この原稿を書いている今、政府は39府県に対して緊急事態宣言を解除した。早速「気の緩み」が報道されているが、平常時に戻ったあと、私たちは何を目指すのか。だからこそ、SOSの今後の活動を注視したいと思う。

 

 

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