コンパウンドの意味とは?車の傷消しの強い味方!
コンパウンドとは何か
コンパウンドとは、ボディ表面についた傷を消すために使用される研磨剤のこと。
コンパウンドを直訳すると「混合物」、「合成物」という意味で、車の世界ではさまざまなコンパウンドが用いられています。
たとえば、タイヤの素材として使われる材料もコンパウンドと呼ばれています。
こちらの記事ではカー用品業界でのコンパウンド、車の塗装についた浅い傷などに使う研磨剤のことを、コンパウンドとして紹介させていただきます。
サンドペーパー(紙やすり)の表面についているザラザラした部分も研磨材ですが、紙に研磨剤が接着されているサンドペーパーに対し、コンパウンドは粉状の研磨剤を薬剤と混ぜ合わせ、ペースト状もしくは液体状になったものがほとんどです。
サンドペーパー同様にさまざまな目の細かさの商品が販売されていますが、微細な研磨が行えるものが多く、スポンジや布に少量出して手で磨いたり、ポリッシャーという機械にパフ(研磨用の布)を装着し、回転させて研磨したりなどの方法で用いられます。
コンパウンドを使えば「車の傷を消すことができる」と上述しましたが、厳密に言えばコンパウンドは研磨剤なので、傷を埋めることはできません。
コンパウンドの傷消しの原理は、車のボディについた微細な凹みである傷周辺をなだらかにすることで傷を目立たなくする仕組みです。
車の塗装面の構造
コンパウンドでの傷磨きを説明するには車のボディ上の塗装面についても説明する必要があります。
そもそも、車の塗装はいくつかの層でできています。外側から、ボディを保護しツヤを出す透明な「クリア層」、ボディカラーの色を決める「カラー層」、サビ止めなどの役割を担う「下地層」があり、その下が鉄板や樹脂の「ボディ」となっています。
つまり、塗装の外側には保護膜となっているクリア層があり、この層を超えない程度の深さの傷であればコンパウンドでなだらかにすることができるというわけです。
カラー層まで達した傷も、場合によってはコンパウンドで目立ちにくくすることは可能ですが、ある程度の経験や技術が必要となってきます。
下地層やボディに達してしまった深い傷になってしまうと、残念ながらコンパウンドで落とすことはできません。
コンパウンドは研磨剤の粒の細かさで使い分けが必要です
コンパウンドは研磨剤の粒の大きさのほか、形状や成分によってさまざまな種類があります。
粒の細かさの違い
目の細かさは、粗目、中目、細目、極細目、超微粒子などの種類があり(メーカーによって呼称は異なります)、粗い目のものほど削る力が高く、細かい目のものほど削る力が弱くなります。
コンパウンドの粒子サイズは、もっとも粗いもので50マイクロメートル(1マイクロメートル=0.001ミリメートル)、細かいものは0.01マイクロメートルほどの大きさです。
車のクリア層の厚さは、おおむね30~80マイクロメートルですので、15マイクロメートルを超える粗目や中目は目が粗すぎるため、車の傷の研磨に使われることはほとんどありません。
10~15マイクロメートル程度の細目は浅い傷や油性の汚れ落とし、錆落としなどに適しています。1マイクロメートル前後の極細目は磨き跡を消したり、メタリックやマイカ色の汚れ落としに使用したりします。
さらに細かい超微粒子はツヤ出しや、くすみ取りに使用するのが一般的です。ただし、製品によって呼称と目の細かさは異なります。
初めてコンパウンドを使用する場合は、何種類かがセットになっている商品を購入し、どんな傷にどの細かさのコンパウンドを使用すればいいのか、説明書をしっかり見るようにしましょう。
ペーストタイプと液体(リキッド)タイプの違い
形状の違いでは、ペーストタイプのコンパウンドは、やや研磨剤の粒子が大きめの場合が多く、流れ落ちることがないのでボディサイドや下側の部分を手作業で行う場合に適しています。
一方で伸びが悪いため、広い部分を均一に研磨するのは難しくなっています。液体(リキッド)タイプのコンパウンドは伸びがよく、ボンネットやルーフなど水平で広い部分をまんべんなく研磨するのに向いています。
ただし、暑い日に液体タイプを使用するとすぐに乾燥してしまい、作業効率が落ちる場合があるので注意してください。
水性・水溶性コンパウンドと油溶性コンパウンドの違い
さらに、コンパウンドは水性・水溶性と油溶性という違いもあります。水性・水溶性のコンパウンドは削る力が高く、作業効率がいいのが特徴です。ただし、研磨カスが出やすいというデメリットがあるのは覚えておきましょう。
油溶性タイプは削る力が弱いため、過剰に塗装を傷つけないような慎重な作業をしたい場合には適していますが、本当に傷がしっかり研磨されているかを確かめるためには、使用した後に「脱脂」という作業を行い確認しなければならないため、手間がかかるのが難点です。
また、油溶性のコンパウンドにはシリコンやワックスなどのツヤ出し剤や保護材が配合されたものもあります。
これは傷の周囲を削ってなめらかにするコンパウンドの成分と、傷の凹んだ部分を埋める成分が含まれているもので、削る作業と埋める作業を同時に行うことができるため、短時間で愛車をピカピカにしたい人におすすめです。
ただし、ツヤ出し成分で埋めた部分は、根本的な傷の研磨にはなっていません。時間が経過するとコンパウンドで消したはずの傷がまた出てきてしまいます。
注意! コンパウンドで磨く塗装面は非常に薄く、柔らかい
鉄でできている車のボディの上に重ねられた塗装は、非常に柔らかい素材でできていることはすでにご紹介しました。
そんなデリケートな塗装をコンパウンドで研磨することには、相応のリスクがあるということを十分に認識しておきましょう。
コンパウンドは、どんなに粒が細かいものを使用したとしても、塗装やクリア面を削ることになります。
脱皮すれば新しい皮が生まれる動物とは違い、塗装の薄皮をむいたらそれっきりです。磨いた分だけ塗装は確実に薄くなっていきます。
どれほど丁寧な作業を心がけたとしても、傷の部分だけをピンポイントに磨くことは不可能です。微細な粒のコンパウンドを使用しても、磨き傷がつくことも避けられません。傷のない部分にまで傷を作ってしまう可能性があることを覚えておきましょう。
また、コンパウンドは塗装面に使用することはできますが、樹脂やゴムの部分に使用することはできません。
特に樹脂バンパーや樹脂モール、タイヤなどはコンパウンドが付着すると変質してしまう可能性があります。
研磨作業をする場合は、樹脂やゴムに付かないように気をつけて、難しい場合はマスキングテープなどで保護してから作業をしましょう。
なお、ヘッドライトのカバーはポリカーボネートが多く用いられており、これにはコンパウンドを使用することができます。
紫外線を防ぐためのコーティング塗装部分が経年劣化した黄ばみが発生した際は、コンパウンドによる研磨が非常に有効です。しかし、施工後にそのままにしておくとすぐにまた黄ばんでしまうので、必ずシリコン剤などでコーティングをするようにしてください。
コンパウンドを使って良い傷・悪い傷
コンパウンドを使って良い傷
ボディについた傷のうち、もっとも浅い層である「クリア層」でとどまっているものは、コンパウンドできれいにすることが可能です。
クリア層の傷の目安は、爪で塗装面をなぞってもほとんど爪がひっかからないもの、傷の周辺に水をかけると傷が消えて見えるもの、ワックスがけや洗車機でついた細かい環状のものなどがあります。
もともとの塗装の色が薄くなったような傷も、次の層である「カラー層」にとどまっているため、コンパウンドで目立たなくすることができる可能性が高いです。
ただ、あくまで傷とその周辺の塗装を研磨してなだらかにするだけですし、施工後にコーティングやワックスなどで、クリア層に変わる保護膜を作る必要があります。
コンパウンドを使わない方が良い傷
一方で、白や灰色など自車の塗装色とは違った色が見えている傷については、コンパウンドで直すことは難しいどころか、研磨すればするほど悪化してしまいます。
カラー層より深い「下地層」の多くは白い色になっており、ここに達した場合はタッチペンや板金塗装で色を加える必要があります。
さらにそれより深い「ボディ」本体に至る傷は、鉄板などがむき出しになった状態ですから、場合によっては傷口から錆が広がる場合もあります。なるべく早く専門業者に板金修理を依頼することをおすすめします。
また、レクサスの一部車種が採用している、セルフリストアリングコート(耐すり傷向上塗料)や日産のスクラッチシールドなど、表面の劣化を防ぐ特殊な塗装に対してはコンパウンドで磨くのは避けた方が無難です。
車の汚れを削り取ることができるコンパウンド
車の傷は表面が削られた状態であるのに対し、ボディには余計なものが付着してしまうこともあります。
その代表格が汚れで、車の汚れには水性の汚れと油性の汚れがありますが、水性の汚れは水洗いでおおむね落とすことができます。
油性の汚れも軽いものであればシャンプーで落とすことができますので、コンパウンドを使う前には必ずシャンプー洗車を行うようにしましょう。
さらに、洗車後にボディを触わり、ざらついているようでしたら細かい鉄粉が残っていますので、粘土クリーナーなどで落としましょう。
しかし、油性の汚れのうち、ボディの表面に強固に付着しているものは、水をはじく性質があるため簡単に取れません。
代表例が水アカや、タイヤ後方のボディ下部によくついているピッチ・タールです。専用のクリーナーなどで除去できる場合もありますが、時間が経ってしまい紫外線や熱で焼き付いてしまうと、取れにくくなっています。
また、雨などの水滴が乾いて不純物が残ったり、油性の汚れが紫外線により塗装を変色させたり、鳥のフンなどが原因で化学変化が起こってしまった汚れなども、なかなか除去はできません。
雨の水分が蒸発し、残ったミネラル成分が白い輪のように残るイオンデポジットは、すぐに除去しないとどんどん堆積していくうえ、熱によって硬度が増してしまいます。
雨がレンズ効果で熱を集めて塗装面を焼いてしまったり、酸性雨で塗装面が酸化したりしてできるウォータースポットは、塗装にわずかなレベルの凹みが生じてしまいます。
こういった場合は、いよいよコンパウンドの出番です。他の車にこすってしまって、相手方の車の色が付いた場合なども、自車の塗装が削られたわけではなく付着しただけですので、こういった汚れも削り取ることができます。
コンパウンド作業をはじめる前は必ず洗車をしてください
最後に、コンパウンド作業へ移る前に必ずやっておきたいのが、しっかりとした洗車です。車のボディには目には見えない汚れがたくさん乗っています。
この汚れは泥などの水性の汚れ、オイルなどの油性の汚れのほか、微粒な石やほこりなども含まれています。
こういった汚れが残ったままコンパウンドで磨いてしまうと、石の粒がついたスポンジで車を磨くことになってしまい、傷が付いていない部分に新たな傷を作ってしまうことになりかねません。
まずはしっかりとシャンプー洗車をおこない、汚れを落としてからコンパウンド作業を行いましょう。
加えて、粘土クリーナーを使用して、洗車で落とせない鉄粉などを除去します。鉄の粒も石の粒同様、ボディに新たな傷を生み出してしまいます。作業へ移るときにはコンディションの確認が必要です。
強風時や炎天下での作業は厳禁です。風が吹くと粉塵などが舞い上がり、せっかく洗車できれいにしたボディに、砂や鉄粉が再び乗ってしまいます。
炎天下では液体タイプのコンパウンドを使用するとすぐに乾いてしまううえ、熱で理想的な効果が生まれません。直射日光を避け、あまり暑くない日や時間帯に行うようにしましょう。
コンパウンドは、ボンネットなどの広い面積であれば、ポリッシャーなどを使用する人もいるでしょうが、多くは手で研磨しようと考えているではないでしょうか。
しかし、人間の手の力というは意外に強いもので、柔らかい塗装面を作業することにあまり向いておらず、特にボンネットなどの広い面を均一に磨くというのは、熟練の職人でも難しいもの。
プロの磨き屋さんの多くが手磨きではなく、機械磨きを取り入れているのも、作業効率に優れているだけでなく、ポリッシャーのほうがボディにやさしいという面もあるようです。
コンパウンドの使い方・実際の作業手順は?
コンパウンドを使用する際の作業手順についてご紹介します。
道具を用意する
まずは、磨く際に使用するウエス(布)やスポンジを選びましょう。
スポンジは天然パルプなどを原料としたセルロース系のものか、ソフトタッチで気孔が多いPVA(ポリビニルアルコール)フォームのワックススポンジなど、保水性が高いものを選ぶと摩擦熱でコンパウンドが乾いて削り過ぎてしまう心配がありません。
ただし、セルロース系やPVAのスポンジは乾燥させてしまうと非常に固くなってしまいます。使用する時は、全体が柔らかくなるまで十分に水に浸して、絞ってから使いましょう。
最近では100円ショップで扱われていることもありますが、カー用品店にはコンパウンド用のスポンジが販売されています。
一般的なワックス用のスポンジより固めで扱いやすいため、試してみてはいかがでしょう。なお、使用するコンパウンドの種類の数だけスポンジが必要になることに注意してください。
コンパウンドには専用スポンジが付属していることが多いので、それを専用スポンジとして使用するのもいいでしょう。
また、コンパウンドの拭き取りには柔らかいネル地のウエスが最適です。
ボンネットやドアなど、手作業で磨くことが難しい広範囲の部分は、電動ポリッシャーを使用したいところです。
電動ドリルの先端に円盤のようなパフを取り付け、回転させて磨くもので、コンパウンドによる研磨だけでなく、ワックスがけにも使用することができ、価格も安いものなら3000円程度で購入できます。
なお、コンパウンドを使用する際は樹脂やゴム、ガラスなど周囲にコンパウンドがつかないように、マスキングテープで養生をすると丁寧な作業が可能です。
傷の修復がメインであれば、コンパウンドを使用する30cm四方ほどの範囲を決め、周囲をマスキングテープで覆っておくと安心です。
塗装の表面を削る作業を行うわけですから、必要がない箇所に傷をつけないように準備をしておくのは重要です。
コンパウンドで塗装面を磨く
用意が終わったら、いよいよコンパウンドを使用していきましょう。まず、スポンジ全体が柔らかくなるように水に浸し、水が流れてこなくなるまで絞ります。
何種類かのコンパウンドを用意している場合は、いちばん目の細かいコンパウンドから使用していきましょう。
液体のコンパウンドであれば500円玉くらいの量を、ペースト状のコンパウンドなら1cmほどの量をスポンジに取り、コンパウンドが付着したスポンジを磨く面にポンポンと数回押しつけます。
続いて直線的にスポンジを10回ほど動かして、磨いていきます。キュッ、キュッという音がしていれば、適切な磨き方になっています。同一方向だけでなく、縦と横の動きを織り交ぜていくようにしてください。
傷の部分だけを磨くのではなく、傷の周辺も優しく擦っていくのがきれいに仕上がるコツです。
円を描きながら動かすのは、仕上がりにムラができたり、新たな傷を生み出したりする危険性があるのでオススメできません。
いちばん細かいコンパウンドで補修効果がなかった場合は、より粒が大きいものに、それでも効果がなかった場合は、もっと粒が大きいものに変えていきましょう。
このとき、種類の違うコンパウンドを使用する際には、必ずスポンジ(ポリッシャーの場合はパフ)を新しいものに変更してください。
傷が目立たなくなったら、粒の細かいコンパウンドで磨き傷を消していきます。最終的にはもっとも細かいコンパウンドでツヤ出しを行いましょう。
最後にウエスを使ってコンパウンドを拭き取り、塗装面を確認してください。ドアノブの周辺や複雑な形状のバンパーなど、スポンジが届かない場所はウエスで磨くといいでしょう。
コンパウンドでの磨きは、地道な作業です。途中で面倒になって、粒子の大きいコンパウンドで一気に磨きたくなってしまいますが、一度削ってしまった塗装は元に戻すことができません。
使い方を守って、細かい粒子のコンパウンドから使用していきましょう。