<故・大林宣彦監督集>『異人たちとの夏』死んだはずの両親との、不思議な再会は…

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 実は数多くある大林宣彦監督作品の中でも、わたしが特に大好きな映画がこの『異人たちとの夏』なのです。離婚直後で、孤独な毎日を送っていた風間杜夫演じる主人公の男は、使われていないトンネルをくぐった後、銀座線に乗って自分が生まれ育った浅草に行きます。ふらりと寄った落語の寄席で、耳慣れた声を聞くとそこには死んだはずの父親が。子供の頃を思い出して、孤独を埋めるように両親の元に通い、同じマンションに住むミステリアスな女性との逢瀬を重ねる主人公は、なぜか衰弱していってしまうのです。

 映像に出てくる昔の東京の姿を見るのも楽しいですが、昭和の時代の親子の愛がとっても切なくて優しい。ふっと寂しくなる夕暮れどきを思い出す映画です。母の日と父の日の間の今だからこそ、すき焼きのシーンでは親のありがたさを感じて欲しいです。実はこの映画、風間と名取裕子のラブシーンが登場するのですが、小学生の夏休みに地上波で家族とこの映画を観ていたのを思い出しました。終盤の衝撃ラストは賛否両論ありますが、わたしはその展開が全然普通じゃないからこそ、好きでした。あまりの展開に怒濤すぎて泣きじゃくりながら観た記憶があります。面白くて、怖くて、布団に入っても怖くて、一時期うちの両親は昔に死んだんじゃないか!? って疑ってしまうようなことをいまだに覚えているんだから、衝撃的な映画だったんですね。大人になってからも、何回も観ている映画。夏が始まる前に、この奇妙な夏の物語を楽しんでくださいね。(森田真帆)★★★★★

監督:大林宣彦

出演:風間杜夫、名取裕子、片岡鶴太郎、秋吉久美子

『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 異人たちとの夏』

Blu-ray 3300円+税 2014/12/03発売

発売・販売元:松竹

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