新しい生活様式

 「実践例」のリストを眺めながら今年は夏場もマスクを手放せないのか-とまず覚悟した。食いしん坊のくせに好き嫌いの多い筆者が次に案じたのは“好きな物を好きなだけ”の「ビュッフェ形式」に吹く逆風▲「身体的距離の確保」から始まって「大皿は避けて、料理は個々に」など新型コロナウイルスの感染防止に向けて政府が掲げた「新しい生活様式」▲さまざまな注意事項が事細かに並ぶ。咳エチケットの徹底や「3密の回避」には納得できても「食事は対面でなく横並びで」「料理に集中、おしゃべりは控えめ」とまで言われては、何もそこまで、の抵抗感もむくむく頭をもたげて▲〈転ばぬ先の杖〉〈君子危うきに近寄らず〉〈浅い川も深く渡れ〉…用心や事前の備えの大切さを教える警句は数多い。昔も今も人間がとても不用心で、準備の苦手な生き物であることの裏返しなのだろう▲だが、日本語には〈あつものに懲りてなますを吹く〉〈蛇にかまれて朽ち縄に怖(お)じる〉と過度の警戒心を笑う言葉もある。いつの時代も肝心なのは、危険に対する適切な距離感▲そう書いてはみたが、なますを吹いていないか、古びたロープを蛇と間違えていないか、と判断するための物差しを私たちはまだ持ち合わせていない。つくづく厄介な相手、厄介な事態だ。(智)

 


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