性的少数者「治療拒否は『死』と同じ」 外出自粛で手術白紙に

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取材に応じた晃基さんは「自分たちにとって手術は必要緊急」と胸中を語る=長崎市内

 新型コロナウイルス対策で「不要不急」の外出自粛が求められる中、長崎県大村市の50代の性的少数者(LGBTなど)は、県外での性別適合手術と県内での治療を受けられずにいる。年齢的にも残された時間は多くない。「私たちにとって手術は『必要緊急』」と訴える。
 「当院はホルモン治療の対応をしておりません」
 「そうですか…」
 「彼」はため息とともに携帯電話を持つ手をぶらりと下げた。わずかな希望を託して問い合わせた病院・クリニックからの返答はすべて「ノー」だった。
 大村市在住の晃基さん(55)は体と性自認が一致しないトランスジェンダー。「女性」として生まれ、現在は改名し「男性」として生きている。性同一性障害(GID)と診断され、戸籍も体も男性になろうと昨春、性別適合手術を受けることを決意した。
 福岡県内の病院に月1回通院。「年齢のこともあるので手術を急ぎたい」。担当医はそんな晃基さんの意志を十分に酌んでくれた。手術のガイドラインに沿ってホルモン治療を施し、順調にいけば9月にも手術を受ける予定だった。
 4月上旬。福岡を含む7都府県に緊急事態宣言が出され、スケジュールは白紙に。だが、定期的に治療を受けないとホルモンバランスが崩れてしまう人が多い。晃基さんは県内十数の病院に電話したが、どこも診てくれなかった。「理解のある医師がいない。ショックだった」
 本来の「性」を取り戻すため、県外の病院に通うのは「不要不急」なのか。
 晃基さんは何度も自問した。自分が医療従事者の立場なら「自粛するしかない」。仮に感染してしまった場合のことを考えたら足がすくんだ。「感染すれば、行動経路やジェンダーも明らかにされる。『この時期に性別適合手術なんて』と言われるのが怖かった」
 女性から男性への性別変更を考えているトランスジェンダーの中には、周期的な生理が精神的に大きな苦痛になり自死に至るケースもあるという。また手術に年齢制限はないが、高齢になるほどリスクは高まる。「当事者にとって手術や治療は時間との闘い。その対応を拒否されるのは『死ね』と言われているのと同じ。せめて死ぬ時は本来の自分でいたい。どうか理解してほしい」。晃基さんは切実に語る。
 14日、長崎や福岡を含む39県で緊急事態宣言が解除された。晃基さんの手術の日程のめどは、まだ立っていない。
 県内の性的少数者の支援団体「Take it!虹」の儀間由里香代表は「『治療を受けられないか』という医療機関への問い合わせは紛れもないSOS。普段からないがしろにされがちなLGBTなどの人たちが、緊急事態においてより困難な状況に追いやられることを痛感した。医療現場や行政機関の理解度を底上げしていくことが必要だ」と課題を指摘する。