年度をまたいで休校が続き学校現場は混乱、子どもを守る担当者の苦悩

2020年5月14日。39県で緊急事態宣言が解除され、それに伴い学校再開へ向けた動きが見られています。6月1日から学校再開としていた予定を5月中へと変更したり、また分散登校など段階的な再開へ向けた動きがとられたりしています。

前回、休校中に、虐待や暴力、DV、貧困などの懸念されるハイリスク家庭へ対応することの難しさとその要因、子どもたちの置かれている実情を対応に奔走する教職員の方々の声を交えお伝えしました。

9月始業制度も議論されるなか、今回は年度をまたぎ長引く休校期間中の学校現場や児童相談所、自治体職員、スクールカウンセラー、子育て支援センターや児童養護施設などの実情を追いました。


年度をまたいだことによる担当者の変更や異動

2020年2月27日に臨時休校要請が出された時点では、期間の目安は春休みまでとされていましたが、その後、年度をまたいで休校の継続された学校や地域が非常に多くありました。

文部科学省によれば、新年度の始業のタイミングであった4月6日時点では休校を継続する方針の国公立校は約4割でしたが、翌4月7日の緊急事態宣言発令などの経緯があり、4月22日時点では9割が休校中。

5月4日の緊急事態宣言の延長時に目処を5月31日とされたことから、学校再開の目処も5月25日〜31日とする公立校が80%にのぼりました(特定警戒都道府県では99%。特定警戒都道府県以外では5月11日〜24日が37%、5月25日〜31日が56%。5月11日時点。文部科学省)。緊急事態宣言の一部解除を受け、休校措置を短縮し学校再開を早める都道府県は共同通信の取材によると13府県(5月16日時点)です。

引き続き特定警戒都道府県とされる地域を中心に、最長で実に3カ月にも及ぶ長期間の休校措置となりました。

当初は、新年度から学校を再開する方針だったところでも、保護者から不安視する声が上がり、休校措置を続けると変更した学校や自治体もあったともいいます。

こうして休校期間が年度をまたいだことにより、なにが起きたか。学校の担任をはじめとした教員、児童相談所の職員、市区町村の役所の教育・子育て関連部署の職員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、子育て支援センターの職員、地域の保健師など、子どもを守る担当者らの異動、変更です。

学校をはじめ児童相談所、役所などでも、次の担任・担当者へ引き継ぎは、もちろんなされてはいます。しかしそれらは、基本的に文字情報による引き継ぎです。

担任と児童相談所との連携が難しい現状

東海地方のある中学校の教員はこう話します。

「コロナ禍以前、平常時からも言えることなのですが、文章による情報の引き継ぎは、担当者の主観や価値観に左右されるところが大きいんです。担当者が、子どもとそのご家庭について、どのような点を、重大な事柄と捉えるか。児童相談所の担当者が変わって、新しいかたへ引き継がれたときに、引き継ぎ内容に不備を感じることが、しばしばあります。私たち学校の教員が、この内容は重大なことだと感じることが引き継がれていない。一方で、この内容を引き継いでどうするのだろうと疑問に感じるようなことが引き継がれている。そんなことがしばしばあります」

また学校の担任と、児童相談所の職員が、異動や進級により、お互いはじめて関わりを持つ者同士であることも少なくありません。

学校の教員と、連携する児童相談所の職員などとの関係も、ひとつの人間関係です。お互いどのような人物で、どういった伝えかたをすれば、どのように動いてくれるか、また動いてくれないのないか。学校側の認識する問題や、必要性を感じる対応を児童相談所がどう判断するか。子どもからの聞きとりなのか、家庭への訪問なのか、保護者との面談なのか、子どもの一時保護措置なのか。子どもや家庭への対応を左右する一要因となります。

学校と児童相談所をはじめとした各関係機関との連携をスムーズに行うためには、事案に対する各々の捉えかたや動きかたをある程度接してみて、お互いに知る必要性があるでしょう。しかし新型コロナウィルス蔓延下で、挨拶はおろか、顔合わせをすること、対面で連携を図ることの難しい現状にあります。

コロナ禍で新たなリスクの発生に懸念も

関西地方の児童相談所に勤める児童福祉司によると「子どもや家庭の実態は、普段の家庭の様子を訪問してみなければ把握が難しい。日時をお約束しての家庭訪問では、当然ながら保護者のかたもよい面を見せよう、取り繕おうとされます。しかし新型コロナウィルス感染拡大下では、お約束の有無に限らず、そもそも家庭訪問自体、行うことが困難です」

また児童相談所より一時保護措置を受けた子どもは、保護期間中の生活を児童養護施設や乳児院などで過ごします。児童相談所から児童養護施設などへ委託されるかたちです。

コロナ禍が、要保護児童数や、児童相談所から児童養護施設などへの委託件数といった実数に影響しているか否かはまだ不透明です。しかし児童相談所の面会をコロナ禍を理由に断る保護者が増えていると報じられています。たしかにそれは合理的な理由として成立はするでしょう。問題はそれが隠れ蓑となり得ることではないでしょうか。

これまで述べてきたように、その前の段階で、何重にも躓きや壁があるのが現状です。また従前よりリスク要因があった家庭に限らず、コロナ禍により、貧困や暴力、心身の健康を損ねるといったことなどが、新たに発生する危険性も十分に考えられます。コロナ禍自体が新たなリスク要因となり得るのです。

"家族"という幻想

九州地方のある小学校の教員は、児童相談所の対応に対し、コロナ禍以前、普段から感じている疑問としてこう話します。

「児童相談所の対応で、平常時にもよくあることなのですが、たとえば、親御さんに虐待やDVといった暴力の問題があると。そうしたときに、直接親御さんへアプローチするのではなく、おばあちゃんがおなじ県内にいらっしゃるから、まずおばあちゃんへ話をしてみよう、とか」

ここには“家族”に対する幻想があるように感じられます。

・保護者に虐待や面前DVなどの問題があったとしても、おじいちゃん、おばあちゃんは、孫がかわいいはずだ
・孫を愛さない祖父母はいない
・お年を召した祖父母ならば、穏やかに話を聞いてくれるはず。わかってくれるはずだ
・祖父母は、孫のために子育ての手伝いをしてくれるはずだ

しかし、筆者の接している相談事例においても非常に多く聞かれることですが、かならずしも孫をかわいがる祖父母ばかりではありません。

一見かわいがっているように見えて、そこには過干渉や支配、子育て中の保護者に対する人格否定、自信を奪う、孫差別といった根深い心理問題が複雑に絡んでいる場合もあり、上記のような幻想を以って単純に見ることのできるものではありません。

またむしろその保護者自身が、子どもの頃に虐待を受けていたり、母娘関係や親子関係、育った家庭(「原家族」といいます)に暴力などの問題があって、それが現在の生きづらさや子育て、夫婦関係を含めた家族関係の困難さに繋がっていることが大変多いのです。

「自分が親と同じことを子どもへしてしまうことが怖いから」と結婚や子どもを持つことを避ける人たちもいれば、子育てをしていても、ともすれば「自分も親と同じことを子どもにしてしまっているのではないか」「あんな暴力的な親に自分の子どもを関わらせたくない。子どもを守りたい」という人たちもいます。

未曾有の事態により、子どもたちも保護者も、教育関係者も、皆、それぞれに大きな負担や痛手を負っています。立場の異なる他者を妬んだり非難したり、あるいは他者を蔑むことで自分の立ち位置を“上だ”“マシだ”と確認しようとしたり。そんな大人同士の対立構造のなかで置いてけぼりにされ犠牲になるのは子どもたちです。

今後、徐々に学校が再開されていくなか、学校生活への適応などの問題も起き得ます。そんなときにまわりの大人たちがともに手を取り合い、歩みを進めていく姿勢が求められるのではないでしょうか。

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