長崎の若手画家・三浦さん 制作通して古里見つめる

「長崎から作品を発信していきたい」と意気込む三浦さん=長崎市田中町のアトリエ

 長崎市田中町の三浦秀幸さん(25)は昨年、県外の美術大学院を修了後、古里に戻って活動している若手画家だ。大学院時代の作を出品した、昨年の全国公募展「国際芸術コンペティション アートオリンピア」(財団法人アートオリンピア主催)で佳作を受賞。現在は同市内の中学、高校で美術の非常勤講師を務める傍ら、地元の自然の美しさを表現した油彩画の制作に励んでいる。「制作を通して、生まれ育った地を見つめ直すことができている」と、長崎を拠点にした活動に手応えを語った。

■純粋に向き合う

 美術関係への進学を目指し、地元の高校で腕を磨いていた当時は、「受験に向けた制作に必死で、周囲の風景から何か感じることは少なかった」。だが、純粋に芸術に向き合ううちに「長崎を描きたくなった」と心境の変化を振り返った。
 幼いころから絵が好きだった。対象を見たまま模写するのでなく「型にはまらない奔放な絵」を描くのが楽しかった。中学で美術部に入った。しかし、教えられる絵は「窮屈な感じがしてうまく描けず悩んだ」。
 そんなときに顧問の男性教諭が、墨の濃淡を生かす日本画の手法を基に、立体的な描き方を優しく丁寧に指導してくれた。「自分もこんな先生になりたい」と教師になる夢を抱いた。

■離れたからこそ

 実現を目指し、県立西陵高(諫早市)では受験に必要なデッサンや油彩画に力を注いだ。2013年、尾道市立大芸術文化学部(広島県)に進学した。
 大学では最先端で活躍する国内外のアーティストと交流。幅広い作家の作品や美術史研究などにも目を向けた。14年の福知山市佐藤太清賞公募美術展(京都府)で特選を受賞。18年、美術公募団体「国画会」主催の「国展」に初出品、入選を果たした。
 大学院修了を控えた同年、美術教師という夢はあったが、ほかにも可能性があるのではないかと一時、進路に悩んだ。東京などの大都市で創作活動に集中することも考えた。しかし「長崎の自然の美しさを描きたい」という思いが強かった。「山々や植物の曲線美、四季折々の色彩にひかれた。地元を離れたからこそ、古里の良さを実感できた気がした」と語った。

■今も模索は続く

 19年に帰郷。学生時代は人物を描くことが多かったが、今は風景が主体だ。近作の「Green Winter(矢上普賢岳より)」は、古里の山並みを背景に、春の訪れを感じさせる柔らかな陽光が注ぐ様子が、独特の明るい色合いで表現されている。
 将来、本格的に教職の道を進むか別の仕事を見つけるか、今も模索は続く。ただ「美術の世界で生きていくなら、もっと専門的技術を高めなければ」という向上心は強い。
 現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、全国的に美術関連施設の休館が広がっている。1人のアーティストとして何とか役に立てないかと、会員制交流サイト(SNS)を通した作品発表を計画中。「美術を身近に感じてもらい、少しでも癒やしにつながれば。楽しめて心が豊かになる作品を描き、長崎から発信したい」

© 株式会社長崎新聞社