日本医師会有識者会議が緊急提言 「科学的根拠の不十分な承認すべきでない」

新型コロナウイルス感染症の治療薬の早期承認が待たれているが、18日、日本医師会の有識者会議(座長=永井良三自治医科大学長)が緊急提言を発表し、十分な科学的根拠なしに承認を行わないよう求めた。治療薬をめぐっては、安倍首相がレムデシビルに続く治療薬を今月中にも承認すると発言している。

「サリドマイドなど数々の薬害事件を忘れてはならない」

事態の早期収束のため、政府は先日特例承認したレムデシビルに続く治療薬の承認を今月中にも行う見込みだが、次の対象とみられるのが、新型インフルエンザの治療薬として承認され、多くの備蓄もある「アビガン(一般名ファビピラビル)」だ。しかし新型コロナウイルスの治療薬としての臨床研究は、国内では薬事承認の要件を満たさない「観察研究」としてしか行われておらず、アメリカでの正式な治験も、順調に推移しても秋までかかる見通し。このような状況でも薬事承認を可能にするため、先日厚労省は「公的な研究で有効性・安全性が確認されれば、臨床試験の結果提出を薬事承認後に後回しできる」という趣旨の通知を発出している。

この政府の動きに、専門家組織である日本医師会は今回、有識者会議の提言というかたちで強い懸念を表明した。提言の中ではまず、アビガンを念頭において、他の疾患で承認を得ている既存薬ならば適用外使用で使えることを提示。さらに過去、拙速な薬事承認が引き起こしたサイドマイドなどの薬害事件を例に挙げ、「科学を軽視した判断は最終的に国民の健康にとって害悪となり、汚点として医学史に刻まれる」と強い調子で指弾した。

提言ではレムデシビルの特例承認のプロセスは正しかったと許容したうえで、有事といえども科学的根拠の不十分な候補薬を治療薬として承認すべきではなく、十分な科学的根拠が得られるまで、臨床試験や適用外使用の枠組みで安全性に留意した投与を継続すべきだとしている。

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