不要不急の法案見送り

 差し当たって必要ではないし、急ぎもしない。「不要不急」という言葉がこれほど日常的に使われたことは、過去にないだろう。この春、私たちは不要不急の外出をぐっとこらえる日々を過ごしてきた▲近頃は政府がやろうとすることが「不要不急」と批判を浴びている。検察官の定年を延長する法改正案の成立が、今の国会では見送られた▲内閣や法相が認めれば、検察の特定の幹部をそのポストに残せる-という特例が、法案にわざわざ盛り込まれている。政府に忖度(そんたく)する人物を、捜査機関の幹部に据えるため?-と疑念が持たれて、著名人が続々と抗議の声を上げ、世の批判も強まった▲折れた安倍晋三首相は少し前まで、非を鳴らす声はすぐに収まると、高をくくっていたとされる。これまでも、政権に問題が生じるたびに口をつぐみ、やり過ごす姿を何度も見せてきた▲今回もまた、時がたつのを待っていたらしいが、新型ウイルス対策が急がれる今国会では、不要不急の法案のごり押しはかえって見過ごされず、「どさくさ紛れ」と難じられた。やり過ごすのが当たり前になった末の見当違いだろう▲法案審議は先送りというが、国民が抱く「不要」論が、急にしぼむとは思えない。「だんまり」や「どさくさ紛れ」の“裏技”ならば、すでに見透かされている。(徹)

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