在宅ワーカー増加でアポ電の手口も変化か、被害が地方で増加している理由

新型コロナは様々な影響を及ぼして、生活様式の「変化」をもたらしていますが、詐欺においても同様です。警察庁による令和元年の特殊詐欺の被害件数の56%は、東京、神奈川などの関東の1都3県に集中して、他の道府県では減少しています。ところが今年に入って、被害件数は都市部と地方の逆転現象が起きつつあります。


今年に入り地方の被害が増加

警視庁によると、今年3月までの特殊詐欺の件数は昨年の同時期より減ってきており、埼玉や千葉でも同様です。それに対して、奈良県では今年の被害件数が66件で前年度同期より40件増えて被害総額も約9,530万円と大幅に膨らんでいます。

愛知県の被害件数は177件で、前年度同期より27件増加、被害総額も4億8,978万円となり、前年度同期より2億9,504万円増えています。この他、三重県では28件と昨年より15件も増えて、北海道では39件、被害額は約9,831万円となり、昨年度の26件、約5,861万円を大きく上回っています。

詐欺被害の増加が都市部から、今年に入って地方部へと移り変わってきていることがわかります。すべての府県の数字が出揃っているわけではないので断言はできませんが、北海道や愛知のように都市と地方の両方を兼ね備えている地域や、奈良や三重のように都市圏に隣接したところに被害が集中してきているように思います。

この背景には、何より新型コロナの影響を鑑みて、詐欺師たちが狙いを変えてきていることがあるでしょう。

都市部は被害減少、在宅ワークが影響?

本来、人口の多い都市部を狙った方が、たくさんの電話をかけられて、詐欺のヒット率は高くなります。効率性を重視する詐欺師たちは本当であれば、こちらを中心にかけていきたいところでしょう。

ですが、今は緊急事態宣言の影響により、出社せずに自宅での在宅ワークをする人が増えており、都内には息子、娘が高齢者と同居する世帯も多いため、詐欺がやりづらくなっているのです。

これまでですと、都市部では子供たちが仕事で出かけた不在時間を狙い、高齢の親のもとに詐欺の電話をかけてお金をだまし取ることもできましたが、今はそれができない状況です。それに家族が四六時中、家にいるので、詐欺の電話をかけても、すぐに忠告される状況なので、詐欺も見抜かれやすくなります。

過去にも、クレジットカードの不正利用を用いた特殊詐欺の電話が高齢者にかかってきて、一端は信じたのですが、それを傍で聞いていた小学生の孫が「おばあちゃん、クレジットカード持っていないからね」と忠告してくれて、詐欺被害を防いだ事例もあります。

地方在住の高齢者が新たなターゲット

それに対して、地方では新型コロナの全国への蔓延を防ぐために、首都圏からの息子、娘の帰省の自粛を促されていますので、親の元に帰れない人が多くいます。しかも、高齢者はコロナ感染のリスクを減らすため、あまり外へ出かけずにいます。

在宅率が高い上に、子供や孫たちが田舎にも帰れない状況なので、詐欺師は地方に住む一人暮らしの高齢者や高齢夫婦世帯を狙う戦略を立てやすく、それゆえに被害件数が地方部で増えていると考えられます。

詐欺師は私たちの警戒の隙間を塗って、騙しの電話をかけます。ここ数年、詐欺被害が少ないから、今年も減るだろうと考えることはとても危険なのです。それは過去の事例を見てもわかります。

大阪のおばちゃんもだまされる

以前は「大阪のおばちゃんは振り込め詐欺にだまされない」と言われてきました。確かに、「オレオレ」と偽の息子が電話をかけても、突っ込みが鋭い大阪のおばちゃんたちは根掘り葉掘り相手の嫌がる質問して、撃退できる傾向はありました。

しかし大阪では、2016年度の振り込め詐欺の「還付金詐欺」と「架空請求詐欺」の被害が全国のワーストに入るほどに増加したことがあります。

これは、大阪弁を使う詐欺集団が出たことに加えて、「払いすぎた保険料を戻しますからATMへ行って手続きをしてください」という還付金話を持ち掛けられると「もらえるものは、もらっておこう」と思ってしまい、結果、騙された人が多くいたのです。大阪人の気質を巧みに突かれたともいえるでしょう。

このように、これまでにない新たなアプローチで来られると人は案外、脆いものです。今の状況は、これと同じことがいえます。新型コロナに便乗した、これまでにない「オレオレ詐欺」や「還付金詐欺」が出てきていますので、昨年被害件数が減っていた41道府県が、必ずしも今年も被害が減るとは限りません。

被害が少なかったのは、ただ詐欺師にあまり狙われてこなかっただけと考えて、しっかりと一人ひとりが警戒の手綱を引いて、身を守ることが必要なのです。

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