【新型コロナ】感染と偏見の二重苦 医療従事者、温かい気遣いに感謝も

 新型コロナウイルス感染者の治療に日々奮闘する医療従事者たち。市民からの応援メッセージや、不足していた医療物資が届けられるなど、物心両面の支援を受ける半面、日常生活では周囲からの「白い目」を意識することがある─と県内の当事者は明かす。感染の恐怖と隣り合わせの日々が続く中、いわれのない偏見に苦悩する姿が浮かび上がる。

 「ウイルスと偏見、二つの見えない恐怖と向き合う日々だ」。横浜市戸塚区の内科診療所の男性院長(45)が嘆息する。医師4人、看護師7人をはじめ職員20人ほどの診療所。新型コロナの治療や検査を行っているわけではないが、かかりつけ医として来院した患者の中には、新型コロナ感染が疑われる症状を訴えるケースもある。専門機関につないだところ、陽性と判定された人もいた。

 院長は「医療に携わる以上、新型コロナを避けては通れない」と痛感する。院内の感染防止に万全を期してはいるが、絶対はない。「職員はウイルスという見えない敵を家庭に持ち帰るまいと、細心の注意を払って懸命に勤務している」と胸の内を明かす。

■白衣に距離

 ただ、診療所を一歩出ると、理不尽な思いをすることもある。訪問診療のため、白衣姿で利用したマンションのエレベーター。乗ろうとすると、近くにいた人がなぜか一緒に乗ることをしない。「医療に携わっていると知って、距離を取られた」と感じた。

 4歳と7歳の子ども2人の親でもある。感染リスクを考慮し、わが子と触れ合う機会も減らして職務と向き合う日々。「毎日、子どもたちにせがまれていた夜の絵本の読み聞かせもしてあげられない」。そんな中で、腫れ物のように扱われたことに無念さは募り、医療従事者への無言の圧力に心がふさがれた。

 「外出しないでほしい」「引っ越してもらえないか」。感染拡大が深刻化する中、同診療所の女性看護師(49)も自身の職業を知る複数の近隣住民に心ない言葉を浴びせられ、がくぜんとしたという。「身近だからこそ悲しかった。理不尽さへの憤りを覚える」

■マスク千枚

 一方で、温かい気遣いを受けたこともある。4月には底を突きつつあったマスク千枚の寄付を、市内の企業から受けた。院長は、段ボール箱いっぱいに詰められたマスクを見て「人のぬくもりに自然に笑顔になれた。ウイルスに立ち向かう闘志が湧き上がった」。厳しい状況下での、人情や善意、助け合いの精神に目頭が熱くなった。

 だからこそ、期待を込めて言う。「医療従事者も、仕事を離れれば普通の市民で家族もいる。そのことに思いをはせ、見守ってほしい」

 県医師会は4月、「医療関係者への偏見や差別」と題した文書をホームページに掲載。「今この時も医療関係者は感染の恐怖の中で戦っている。地域の医療機関の活動が差別意識で妨げられるようなことは決してあってはならない」と理解を求めている。

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