メクル第461号 九州新幹線長崎ルート 2022年度開業へ 難しい工事も着々進行

長崎駅(奥)側から国道をまたぎ、送り出される橋りょう=長崎市の宝町付近

 2022年度の「九州新幹線(しんかんせん)長崎ルート」の開業に向け、佐賀(さが)県武雄(たけお)市から長崎市にかけて線路や駅舎(えきしゃ)建設(けんせつ)など大規模(だいきぼ)な工事が進められ、風景も変わってきました。工事にはどんな工夫があり、まちはどう発展(はってん)するのでしょう。事業主体の鉄道建設(てつどう)・運輸施設整備支援機構(うんゆしせつせいびしえんきこう)と県に取材しました。

■国道をまたぎ橋設置 住宅地の近くでトンネル掘り

2022年度開業時の九州新幹線長崎ルート

 福岡(ふくおか)市のJR博多(はかた)駅-長崎駅を結ぶ長崎ルートのうち、22年度の開業時に新幹線が走るようになるのは武雄温泉(おんせん)駅-長崎駅の約66キロです。博多駅-武雄温泉駅の約82キロは在来線(ざいらいせん)を利用。新幹線と特急が並(なら)ぶ武雄温泉駅のホームで乗(の)り換(か)える「リレー方式」で運行します。
 新幹線は速く走るために、その線路はできるだけ最短距離(きょり)を通るように設計(せっけい)されています。
 長崎ルートは2008年に着工し、武雄温泉駅-長崎駅の山間部などではトンネル31本を掘(ほ)りました。トンネル部分の長さは計41キロ、全体の61%を占(し)めます。橋は168カ所あり、長さは計7キロで全体の11%。これまでに敷(し)いたレールの長さは計17キロで、計画全体の25%を終えたところです。
 この間にはいくつもの難(むずか)しい工事があり、いろんな工夫や最新の技術(ぎじゅつ)を投入しています。長崎市中心部の国道202号と県営(けんえい)バス駐車場(ちゅうしゃじょう)をまたぐ「宝町(たからまち)橋(きょう)りょう」の設置(せっち)もその一つです。

宝町橋りょう設置イメージ図

 まず長崎駅近くの高架(こうか)上で長さ約82メートルと約70メートルの橋げたを組み立てて連結し、さらに先端(せんたん)に仮(かり)の橋げたをつなぎました。総重量(そうじゅうりょう)約1650トンもあるその橋げたを、国道を挟(はさ)んで東側の「新長崎トンネル」そばの橋脚(きょうきゃく)に向けて、バランスを取りながら少しずつ送り出して、つなぎました。
 宝町から市東部の現川(うつつがわ)町付近に抜ける、その新長崎トンネル(7460メートル)を掘り進める際(さい)には「高精度(こうせいど)電子雷管(らいかん)」を使いました。通常(つうじょう)は複数(ふくすう)の穴(あな)に詰(つ)めたダイナマイトを同時に爆発(ばくぱつ)させますが、住宅地に近いため、電子制御(せいぎょ)で時間差を設(もう)けて爆発させて振動(しんどう)や騒音(そうおん)を小さくしました。
 諫早(いさはや)市の「諫早トンネル」(230メートル)は、同市宇都(うづ)町の4車線の国道の地下を通ります。トンネルの天井(てんじょう)から約2.5メートル上にある道路が沈下(ちんか)しないよう長さ約60メートル、直径80センチの鋼管(こうかん)を水平方向に15本打(う)ち込(こ)みました。

三ノ瀬トンネルの建設では入り口上部の不安定な岩などを除去し、コンクリートで固めた=東彼杵町

 東彼杵(ひがしそのぎ)郡東彼杵町の「三ノ瀬(さのせ)トンネル」では、入り口上部の山の斜面(しゃめん)にあった不安定な岩や石を除去(じょきょ)し、広範囲(こうはんい)をコンクリートで固めることになりました。
 長崎ルートの建設現場(けんせつげんば)では現在(げんざい)も大勢(おおぜい)の作業員が完成に向けて奮闘(ふんとう)しています。

■まちに新しい駅舎 周辺には店舗やマンション

 長崎ルートの武雄温泉駅-長崎駅間では、五つの駅舎建設が進んでいます。県内の関係自治体は駅周辺を再開発(さいかいはつ)し、まちを活性化(かっせいか)しようと力を注いでいます。

新大村駅(仮称)の完成イメージ図(鉄道建設・運輸施設整備支援機構提供)

 大村市の新大村駅(仮(か)称(しょう))は、現在の大村駅から北に約2.5キロ離(はな)れた同市植松(うえまつ)3丁目に建設中。その西側には在来線の新駅もできる予定です。さらに北側にある同市宮小路(みやしょうじ)地区では、新幹線の「車両基地(きち)」も造(つく)られています。
 これを受けて、同市は新大村駅東側の県立ろう学校跡地(あとち)にマンションや企業などを誘致(ゆうち)し、にぎわいを創出(そうしゅつ)しようと考えています。

着々と工事が進む諫早駅の新幹線ホーム=諫早市

 諫早市の諫早駅では在来線駅舎の西側に、新幹線の駅舎ができます。駅周辺には、同市が店舗(てんぽ)やオフィス、ホテル、マンションなどが入る再開発ビルを建設しています。新幹線と在来線、バス、島原鉄道との連結がスムーズになり、県央地区の「玄関口(げんかんぐち)」として進化しそうです。
 長崎市の長崎駅の新幹線駅舎東側には、高級ホテルや商業施設(しせつ)などを備(そな)えた13階建ての新駅ビルが計画されています。西側には、大規模(だいきぼ)な会議や展示会(てんじかい)が開催(かいさい)できるMICE(マイス)(コンベンション)施設ができる予定です。
 2022年度の暫定(ざんてい)開業まであと2年。県土木部新幹線事業対策(たいさく)室の大塚正道(おおつかまさみち)室長は「交通の利便性が高まり、交流人口の拡大(かくだい)による地域(ちいき)の活性化など多くの開業効果(こうか)が期待される。新幹線は災害(さいがい)にも強い。新幹線と長崎県の未来に関心を持ってほしい」と話しています。

■フル規格なら51分 博多駅-長崎駅間

 長崎ルートを走る新幹線の設計上の最高速度は260キロ。在来線のJR長崎線で運行している特急かもめの2倍の速さです。「フル規格(きかく)」とも言われる新幹線の標準的(ひょうじゅんてき)な線路は幅(はば)約1.4メートルと、在来線の約1.3倍広いため、安定して走行でき、スピードを出せるのです。
 博多駅-長崎駅間の所要時間は現在、在来線特急で最短1時間49分。新幹線と特急を乗(の)り継(つ)ぐ「リレー方式」では1時間20分で、29分短縮(たんしゅく)されます。
 もし長崎ルート全線がフル規格で、新幹線が乗り換えなしで走れば約51分と半分以下になります。長崎市民にとって、福岡市が通勤通学圏内(つうきんつうがくけんない)ともなるのです。
 さらに全線フル規格であれば、新大阪(おおさか)駅までの所要時間は約3時間15分。関西圏との「距離感」はぐっと縮(ちぢ)まり、交流拡大(かくだい)も期待されます。
 長崎ルートはもともと、新幹線と在来線の両方の線路を走行できる新開発のフリーゲージトレイン(FGT、軌間可変(きかんかへん)電車)を走らせる計画でした。しかし、開発が進まず、まずはリレー方式で2022年度に開業することになったのです。
 その後、新幹線整備を考える自民党と公明党の与党検討(よとうけんとう)委員会は、18年までにFGTの導入(どうにゅう)そのものを正式に断念(だんねん)。長崎県の中村法道(なかむらほうどう)知事は全線フル規格での整備を国に求めていますが、工事費が増(ふ)えることなどから佐賀県の山口祥義(やまぐちよしのり)知事は計画の変更(へんこう)に反対しています。


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