<文化とコロナ>活水中・高 吹奏楽部音楽監督 藤重佳久さん(65)インタビュー 舞台パフォーマンスの脅威 できること模索し共存を

「今はコロナに負けない元気な曲を演奏することが必要」と語る藤重さん=長崎新聞社

 音楽芸術は奏者と聴衆で成り立っている。その場の空気を共有し、その空間で二度とできない演奏をする。聴衆の反応に合わせてテンポを速めたり今までと違う表現をしたりするなど、生演奏は創造性や柔軟性が求められる。一方、CDやDVDは正確な音楽をいつでも聴くことができるが、サプライズの演奏を聴くことはできない。
 ミュージカルは何十年も毎日同じものを上演するが、それでも多くの客が見に行く。なぜかというと俳優や歌の調子の変化、成長、頑張りを見て、聴いて、心が豊かになり活力をもらうから。音楽も同じ。一つの空間に人が集まり、今回はどのような演奏になるのかを楽しむ。新型コロナウイルスの感染拡大は、ステージパフォーマンスの本来あるべき姿を否定するものであり、脅威だ。
 指導している活水中・高吹奏楽部の今年の目標の一つは、全日本吹奏楽コンクールと全日本マーチングコンテストに出場し両大会で金賞を取ることだった。しかし感染拡大防止の観点から共に中止。また春先から休校、部活動も休止となった。そのため部員には、自宅で録画した演奏動画をLINE(ライン)で送ってもらい、私がコメントを返す個人レッスンを初めて実施した。生徒が録画する前に自主的に練習を重ねていたことは思わぬ成果だった。
 コロナ禍では、オンラインの価値が見直された。集まれない、演奏を聴いてもらえない中、感染の心配が無いオンラインを皆が慌てて準備し活用した。しかし奏者と聴衆の距離感、会場の雰囲気、温度、匂いなど、音楽芸術の醍醐味(だいごみ)である五感を使うことができず一体感を生み出すことも難しい。音楽の持つ魅力は半減してしまう。けれども、「披露する場」「反応をもらう場」としては有効だと感じる。今後インターネットの活用はスタンダードになってくるだろう。
 緊急事態宣言が解除され、元の生活に戻りつつあるが、第2波、第3波が起こる可能性もあり、不安は続く。感染がまた広がれば規制が一層強まり、再び自由に活動できなくなる。それでも、生徒には知識や情報を得るチャンスと思ってほしい。名演奏や名曲を聴いたり音楽の本を読んだり、音楽家が語る動画を見たりするのもいい。オンラインでコミュニケーションをとることで、演奏上のいろんなアイデアを得ることができるかもしれない。そういった経験は音楽活動に必ず生きてくる。
 今後も予期しないことが起こり得る。中間テストはなくなり、夏休みも短くなるなど学校行事も変わってきた。そうやってコロナの状況把握や情報収集をしながらできることを模索することによって、私たちはコロナと共存できるのではないだろうか。
 部活動では「上を向いて歩こう」など元気が出る曲を練習し、インターネットを通じて発信しようと思う。指導者として、生徒の魂が震えるほどのことをしたいと考えている。

 新型コロナウイルスは、本県の文化芸術にどのような影響を及ぼすことになるのか。アフターコロナの世界も見据え、県内識者らへのインタビューを通じ、地方文化の「これから」を考える。

 【略歴】ふじしげ・よしひさ 1954年、福岡県久留米市生まれ。武蔵野音楽大卒。福岡市の精華女子高吹奏楽部顧問として全日本吹奏楽コンクールで金賞10回、全日本マーチングコンテストでは16回出場し全て金賞。2015年から長崎市の活水女子大音楽学部教授。活水中・高吹奏楽部の音楽監督として昨年は県勢初の同コンクールと同コンテストのダブル出場。同コンテストで2年連続の金賞。

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