徳島・阿波おどりの衣装でマスク作製 新型コロナで祭り中止も「人のために」

徳島市の阿波おどり。今年8月の開催は中止に=2019年8月12日

 「踊る阿呆に、見る阿呆」でおなじみの徳島の夏の風物詩「阿波おどり」が、新型コロナウイルスの感染拡大で今年8月の開催が中止となった。地元には喪失感が広がるが、阿波おどり用品の専門店が踊りの衣装の裏地や下着に用いる「さらし木綿」でマスクを作製し販売を始めた。衣装の注文が減る中で「実用的なものを作り人のためになりたい」との思いが込められている。(共同通信=石井祐)

 マスクの販売を始めたのは徳島市の「岡忠(おかちゅう)」で「晒(さらし)マスク」とネーミングされた。自身も踊り子の岡本慎治(おかもと・しんじ)社長(55)は「『何かしないといけない』という思いでマスクを生産している」と話す。

「晒マスク」を装着する岡本慎治さん

 真夏の夜に舞う踊り子の汗をしっかり吸う木綿を使い、肌触りが柔らかく、吸湿性に優れているのが特徴だ。布を3枚重ねてフィルター効果を高めつつ、息苦しくない立体構造に仕立てた。

6月8日からは、真夏に向けて、より通気性の高い2枚重ねや、徳島伝統の藍染めを施したマスクも販売する予定で、岡本さんは「晒マスクは、蒸し暑い夏でも、苦しくないはずだ」と語る。

 マスク不足の報道を見て、「東京や大阪などにいる阿波おどり関係者に届けば」という思いで製作に取りかかり、4月13日に販売を開始した。会員制交流サイト(SNS)で拡散されると、県内外の一般の人からの注文も増えて、現在は予約待ちの状態だ。

「さらし木綿」で作ったマスク

 岡忠は1960年に、岡本さんの父の忠(ただし)さん(85)が呉服屋として創業した。有名連(有力な踊り手グループ)の一つの「蜂須賀連」に参加していた忠さんが、仲間から衣装製作を頼まれたのがきっかけで、次第に専門店に転換。今では楽器や小物など阿波おどりに欠かせないアイテムの全てを扱うようになった。

 徳島では、多くの有名連が一年中、踊りの練習を続ける。春を迎えると、8月12~15日の本番に向けた練習が本格化し、夕暮れの街に、踊りの旋律が鳴り響く。2代目の岡本さんは「陽気とともにお客さんも増えて、店もにぎやかになり、『いよいよだな』って思う。盆の踊りを中心に1年が回っている」と笑う。

今年8月の阿波おどり中止を発表する徳島市の内藤佐和子市長=4月21日、徳島市役所

 しかし、今年はコロナの影響で、各連は練習を取りやめた。市などで作る「阿波おどり実行委員会」は4月21日、戦後初となる全4日間の中止を決めた。

 蜂須賀連の連長も務める岡本さんは「予測はしていたが、いざ中止と聞くと、やはりがくぜんとした。盆の踊りは本当に特別なもので、ほんまに徳島のパワーの源だからね」と悔しさを隠さない。緊急事態宣言が解除された後も、「いつ練習を再開できるかは分からない」と声を落とす。

新たに発売する「夏マスク」(岡忠提供)

 「衣装の注文も減った」と岡本さんは話すが、「今は実用的なものを作り、人のためになりたい」と前を向く。普段は衣装を縫製する縫い子と従業員約15人が、手作業で1日80枚程度のペースで、マスクの生産を続けている。

 マスクはS、M、Lの3サイズがあり、洗って繰り返し使える。白無地のマスクは2枚1セットで990円(税込み)。藍染めマスクは1枚1485円(同)。

 注文は岡忠のネットショップなどで受け付けている。

© 一般社団法人共同通信社