特集は、新型コロナウイルスの余波です。コロナの3文字が店名に入っているというだけで、理不尽な誹謗中傷を受けた食堂があります。最近は励ましの言葉も。人の悪意と善意を考えさせられるニュースです。
カラっと揚げられていく名物の大きなかき揚げ。長野県佐久市臼田に店を構え、70年以上になる食堂です。腕を振るうのは3代目店主、須藤仁志さん(42)。
新型コロナウイルスの影響で客足は以前の半分以下に減少していますが、昼時ともなると常連客が訪れます。そうした地域に溶け込む食堂を突如、襲ったのは、嫌がらせと中傷でした。
味蔵コロナ食堂・須藤仁志さん:
「インターネットの書き込みとか無言電話ですね。無言でなくても受話器を押さえて「出たぞ、出たぞ」って言ってプツって切れる。(店名は)太陽の周りの皆既日食の時に出るあのコロナが由来。(無言電話の理由は)それ以外に心当たりないですからね」
食堂の名は「味蔵コロナ食堂」。戦時中、軍隊で炊事を担当していた祖父が始めた「甘味処コロナ」が食堂の出発点です。理由は定かではありませんが、太陽の表面の層「コロナ」が由来で地元では、今でも「コロナさん」と呼ばれ、親しまれています。
異変が起き始めたのは3月頃でした。昼夜を問わず1日10回以上かかってきた無言電話。
書き込み:
「こんな名前の店には入りたくない」
「店に入りにくい名前」
インターネット上には心無い書き込み。無言電話や中傷は、4月に入っても続き、中には看板を撮影して笑いながら去っていく人もいたといいます。
味蔵コロナ食堂・須藤仁志さん:
「ここまでくると、ため息だけですね。うちが何をしたんだろうっていうだけしかないですね」
客足の落ち込みに加え、まさかの誹謗中傷。心を痛める須藤さんを支えたのは客からの励ましです。
味蔵コロナ食堂・須藤仁志さん:
「応援していただいてるし、地域の皆さんは分かっていてもらえるので、頑張る、耐えるだけですね」
ランチの時間。近くで働いているというグループが注文したのは、名物のかき揚げ丼に、県外のファンも多いというソースかつ丼。
客:
「すごい多くて、お腹いっぱいでおいしかったです。気軽にネットにあること、ないこと書くのはどうかなと思う」
「ネットのあれをみて心配になって、応援も兼ねて食べに来ています」
「地元のおいしい食堂として頑張ってもらいたいので、また食べに来ます」
この日、食堂に小包が届きました。
記者:
「何が届いたんですか?」
味蔵コロナ食堂・須藤仁志さん:
「わからない、お花ギフト?」
開けてみると…。
味蔵コロナ食堂・須藤仁志さん:
「あー!励ましのお手紙…」
手紙:
「少しでもお気持ちが明るくなっていただければうれしく思います」
味蔵コロナ食堂・須藤仁志さん:
「手紙とお花が届いた、大阪の人から。うれしいですね、まさか大阪の人からこうやって応援していただけるのは。カウンターの上に飾らせてもらいます」
食堂への誹謗中傷を聞きつけて、今、全国から励ましの手紙が届いています。
手紙:
「この事態や心ない言動をする人たちに負けないでください」
「太陽みたいに吹き飛ばしてしまってください!」
味蔵コロナ食堂・須藤仁志さん:
「うちみたいな田舎の小さいお店のことを、それだけ気にかけてくれる人がいるのは幸せ。お客さんを大事にする、それしかない。実際に食べた人の声よりも強いものはないと思っているので、お客さんを大事にすることしか、うちにはできない」
無言電話や中傷を書き込む人には…。
味蔵コロナ食堂・須藤仁志さん:
「うちをつぶそうとか、そういうので書いているのではなくて、本当に勢いとかで書いている人もいると思う。送信ボタンを押す前に、5秒でいいから考えてっていうだけ」
一方、こちらは千曲市のうどん店。漢字を当てていますが、名前は「古炉奈」です。
古炉奈・滝沢佳子さん:
「太陽の周りのコロナのことを言っている。私がこのお店を継いだ時に、ガガーリンが宇宙に行ってコロナがいいなって思った」
店自体は大正時代から100年つづく老舗です。名前を古炉奈にしてからも、ねずみ大根を絞った汁を使う、おしぼりうどんの名店として知られています。
多くファンがいますが、新型コロナウイルスの影響で先月7日から休業中です。
古炉奈・滝沢佳子さん:
「うちのまねして変な名前(ウイルスに)つけて。皆さんにそう言ってますよ。誰を恨むこともできないので仕方のないこと。苦しいというより寂しいですよね、お仕事できなくて」
こちらには、誹謗中傷は寄せられておらず、この休業中はファンから励ましの電話がかかってきたと言います。
古炉奈・滝沢佳子さん:
「頑張ってやってくれって。古炉奈がコロナに負けないで頑張れよって言ってくれました」
今月30日には、営業を再開する予定で、飛沫感染を防ぐシートや「密」を防ぐ対策の準備を進めています。
古炉奈・滝沢佳子さん:
「再開してお客さんが来てくれればいいんですけど、開けてみないと分からない。お客さんが『辛い!』って食べてくれる顔が楽しみで頑張ります」
新型コロナウイルスによって生じている人の悪意と善意。その影響を改めて考えるべきではないでしょうか。