大打撃の観光立国フランス、夏までに旅行はどこまで正常化するのか

夏休みに海外旅行を計画していた人にとって、今回のコロナ禍は大変やきもきさせているのではないでしょうか。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で外出自粛となったゴールデンウィーク。残念ながら我慢が続く結果となってしまいました。

人の自由な移動を制限するということは、観光産業で生計を立ててきた人々にとっても、苦労を伴う時期になっています。通常であれば大きな需要が見込まれる夏に向けて、世界一の観光立国として走り続けてきたフランスはどのように考えているのでしょうか。


フランスでGDPの約8%を占める観光セクター

「EU国境は閉鎖されており、それは帰国のフランス人を除いて閉鎖されたままになる」
フランスのル・ドリアン外相は、仏メディアLCIと行った5月19日のインタビューの中で、EU域外からのフランス人以外の入国について、このように述べました。

現在フランスは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、3月17日から国境の閉鎖を続けています。フランス人およびフランスの滞在許可証を所持する外国人は、EU域外からフランスへ入国できますが、一部の例外を除いて外国人は国境を越えることはできません。

併せてル・ドリアン外相は「EU域外からフランスに入国するフランス人に対して、水曜(5月20日)から自発的に14日間の隔離を行うよう求める」とも述べ、一方で「感染症のぶり返しがなければ、6月15日からEU域内の国境管理は全体的により緩和されるだろう」とも語っています。

フランス経済において観光産業は200万人の雇用を生み出し、国内総生産(GDP)の8%を占める重要な分野です。年間9,000万人の外国人旅行者がフランスを訪れています。新型コロナウイルスで打撃を受けた観光産業の立て直しは、フランスにとって急務の課題。

フィリップ首相も5月14日の演説で、7~8月の国内旅行を解禁することについて言及し、新型コロナウイルスにより休暇先に行けなくなった場合の新規予約のキャンセルについては、全額を払い戻し保証すると述べました。加えて6月28日の同首相の会見では、6月15日以降のヨーロッパ内の移動は、欧州レベルでの調整した後に決定されると発表されました。フランスは域内国境の制限解除に賛成しています。

夏にフランスの旅行はどこまで正常化するのか

5月15日、フランス国鉄(SNCF)は7~8月の切符予約を再開しました。切符販売などを手がけるSNCFの子会社ボヤージュSNCFのクラコビッチ社長は、5月18日に自身のTwitterで状況を発表。同氏によると、発売から3日間で14万枚の座席が販売され、売り上げは過去2ヵ月の2倍の規模だったそうです。

閉館中で観光客がいないルーブル美術館

行き先は、上位からプロヴァンス・アルプ・コート・ダジュール(南東部)、シュード・ウエスト(南西部)、ブルターニュ(北西部)、ラングドック(南西部)と続きます。2ヵ月間の外出制限が続き、特にパリなど大都市の人々を中心に窮屈な思いをしていたフランス人ですが、彼らのすべてが国内旅行にシフトするといっても、コロナ禍以前の状況の補完は可能なのでしょうか。

この問いに、ラジオ・フランスが運営する文化チャンネル、フランス・キュルチュールは「セクター全体が通常に戻るのは2021年10月」と述べます。観光産業の業界団体であるアントルプリーズ・ドゥ・ボヤージュ(EdV)のマス代表は、同メディアを通して「もしシェンゲン圏が開いていれば通常の30.35%になるだろう。しかしながら、シェンゲン圏が開かない場合は15%になる」と今夏の予測を語りました。

パリはウィズコロナをどのように考えるのか

パリは今後の観光のあり方をどのように考えているのでしょうか。パリ市観光局の担当者は「パリを訪れる人々は、外国人ではなく、ほぼフランス人に限られるだろう」と、今夏のパリの状況を予想します。

コロナ禍以前と比べ交通量の減ったパリ市内オペラ通り

コロナ禍以前と異なり、密集した場所を避けてパリ見物をしたいと考える旅行者は多いはずです。そのため「密にならない中心部以外の散策スポットや、小さな美術館などを紹介していく方針だ」と語ります。

なお5月28日の会見では、フィリップ首相が6月2日以降フランス全土で博物館、ビーチ、歴史的建造物などの営業を再開すると述べました。さらに状況に比較的余裕のある国内大部分の地域では、カフェ、レストラン、バーなどの営業再開が6月2日から可能になり、それ以外の地域(パリ含む)ではテラスのみ営業可能になりました。

ウィズコロナにおけるフランスの観光施設の様子を、5月26日に特別展のみ再開したパリ市内のジャックマール・アンドレ美術館を例に取ってみます。イタリア、フランス、オランダ絵画などを展示する同美術館では「インターネットによる入館日時の事前予約」「マスク着用義務」「入館の際の検温」「消毒ジェルの設置」「社会的距離を保つ」「入館は最大で60人まで」といった制限をかけました。

今後、他の美術館も開いていきますが、このような制限はウィズコロナの世界で1つのスタンダードになっていくはずです。

感染拡大を抑えつつ、今後段階的に制限を緩和するに従い増えていく旅行者をどのようにさばいていくのか。制限解除が進む社会と両立しながら、試行錯誤は続きます。

加藤亨延 / Keiko Sumio-Leblanc

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