コロナ禍の警察の現場 ネオン街に広がる「ゆるみ」 感染予防、抱えるジレンマ

マスクと手袋を着用し、繁華街をパトロールする警察官=28日午後9時12分、長崎市本石灰町

 長崎県警が受理した4月の110番件数(いたずらや間違いを除く有効受理件数)は3722件と、前年同月比で約2割(1115件)減少したことが県警のまとめで分かった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛が影響したとみられる。
 県警通信指令課によると、通報の内訳は交通関係1396件(前年同月比624件減)、刑事関係135件(同66件減)といずれも約3割減少した。
 1~3月の有効受理件数は3月の4494件を最多とする4千件台で推移しており、4月の減少が顕著。同課は「外出自粛の影響で交通量や交通事故、刑法犯が減少。それらの影響で110番も減ったのでは」とみている。

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 長崎市中心部の繁華街を受け持つ丸山町交番に5月16日と28日の夜間に密着した。16日は県内で緊急事態宣言が解除され初めての土曜日。人通りはまばらで110番通報は少なかった。その日真っ暗だった雑居ビルに、28日は看板のネオンが戻っていた。
 全国で緊急事態宣言は解除されたが、県警は第2波を警戒し、感染予防を図りながら業務に当たっている。警察官はマスクと手袋を着用し街頭を警戒。職務質問などでは感染拡大前とは違う注意が必要となる。現場を取材した。

 17日午前2時すぎ。「酔っぱらいが寝ている」と110番が入った。スナックや居酒屋が立ち並ぶ長崎市本石灰町の通りに丸山町交番の警察官数人が駆けつけると、高齢男性が横たわっていた。
 「お父さん、大丈夫ですか」「分かりますか」「お名前を言えますか」
 矢継ぎ早に質問し、状態を確認する。男性はかなり酒に酔っているようだ。立ち上がろうとするが、何度も足元がふらつく。転倒したのか、左の側頭部から出血している。
 新型コロナウイルス感染症を防ぐため、感染拡大前とは違い、相手とは一定の距離を保つようにしている。手袋を着用し、不用意に体には触れない。幸い男性のけがの程度は軽く、身元を確認したところ自宅も近かったためタクシーで帰宅させた。
 酔っぱらいの「寝込み」の通報は日常茶飯事だ。同交番の福山太郎警部補(38)は「こういう時期だからこそ、相手がどこから来た人物なのかは気になる」と明かす。そうは言っても、犯罪や被害の防止が最優先。「予防対策ばかりを言っていられない場合もある」と現場対応の難しさを口にした。

路上に倒れていた男性に声を掛ける警察官。一定の距離を保っている=17日午前2時9分、長崎市本石灰町(画像は一部加工しています)

  ■「ゆるみ」の中

 28日夜。休業要請が解かれたこともあり、居酒屋だけでなく、キャバクラやガールズバーといった接客を伴う飲食店も営業を再開していた。通りでは呼び込みをする若い男女の姿も見られる。仕事帰りのサラリーマンの姿こそ少ないものの、活気は少しずつ戻りつつある。
 午後11時すぎ。「けんかがあっている」と110番が入った。思案橋入り口近くの油屋町の路上に警察官やパトカーが駆けつけると、5、6人の若い男性たちが大声を張り上げていた。「もう大丈夫やけん、警察は来んでよかって」。酒に酔った状態で警察官にからむ。飲酒後、仲間内で口論していたところを通報されたようだ。
 けが人などはいなかったため仲裁し、その場を離れた。この直前にも「若者が大勢たむろしている」と交番に通報があったばかり。福山警部補は「飲んだ後だからか、マスクをしていない人が目立つ。『ゆるみ』が広がる今だからこそ、こちらも予防対策には気を配りたい」と表情を引き締める。
 交番内も対策を講じている。受け付け用のテーブルには飛沫(ひまつ)を防止するビニールシートを設置。業務の合間に定期的に窓を開けて換気をし、卓上はアルコール消毒をする。
 さらに交番には防護服を備える。対応する事案で、相手や関係者に感染が疑われる場合は着用、または持参する。これまで同交番管内では着用する事案は起きていない。

感染予防対策として、交番内の受付テーブルにはビニールシートが設けられている

  ■ジレンマ抱え
 
 一方、住宅街にある交番では、街頭パトロールを強化している。感染拡大を防ぐための臨時休校や外出自粛により、人が集まりやすい場所が変化した。重点的に見回る地域ではパトカーや警察官の姿を多く見せることで、抑止につなげる。
 約7千世帯をカバーする淵交番。休校期間中は地域に点在する公園に平日でも多くの子どもの姿が見られた。1人でいる子どもがいないか、不審者がいないかなど、くまなく見て回る。多くの人が集まるスーパー周辺での事件や事故も警戒に当たってきた。
 長崎署の松本健・地域交通官は「警察官が感染すれば、隔離などの対応が必要となり、警察力の低下も懸念される。だからこそ、十分な注意が必要。しかし、交番では、どうしても人と接しなければできない業務があるのも事実」と、ジレンマを抱えている現状を明かす。その上で「感染リスクがある一方、予防を徹底し、いかに警察力を維持していくかが問われている」と語った。


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