<備えはいま 普賢岳大火砕流から29年・上> 「避難所」 コロナ流行で状況一変

島原市が避難所の「3密」対策で導入する2種類の組み立て式段ボール製ベッド。奥は間仕切り付き仕様=市役所

 「今まで感染症禍での避難という概念がなかった。場所の確保に頭が痛い」
 島原市の担当者は、新型コロナウイルス感染の収束が見通せない中、災害発生時に不足が予想される避難所の状況を危惧する。「3密」を避けるため1人当たりのスペースを広くすると施設の定員が大幅減となり、避難者を受け入れきれなくなる恐れがあるためだ。
 同市の指定避難所は、公民館や小中高校など計42カ所で6万7365平方メートルを確保。同市は避難所の1人当たり床面積について、東日本大震災や熊本地震の例を参考に算出。短期の避難では、1人当たり床面積を1.6平方メートルに設定。その場合、同市の人口4万4710人(4月末現在)の約9割を収容できる。
 大地震などで生じる長期避難の床面積は、居住性を考慮し約2倍。収容人数は2万人を切るが、雲仙・普賢岳噴火災害時でも避難者は最多で7208人(1991年9月)だったため、同市は長期でも避難所の確保は可能とみていた。
 ところが、新型コロナ流行で状況は一変。国は4月、避難所の感染予防対策を地方自治体に通知した。同市は1人当たりの床面積を4平方メートル、さらに各世帯につき2メートルの間隔を取って試算。噴火災害時の最多避難者を収容するには、市霊丘公園体育館・弓道場(1699平方メートル)が53棟必要な計算になり「現実的に確保できない」(担当者)。
 県が実施した市町アンケートによると、避難者間の距離を取るなど対策を講じた場合、避難所の数が「足りている」のは21市町のうちわずか3市町で島原市は含まれていない。
 受け入れ先を増やそうと、県は先日、県旅館ホテル生活衛生同業組合と協定を締結。配慮が必要な高齢者や妊婦らの避難先として旅館やホテルの利用を可能にした。県危機管理課の近藤和彦課長は「隣接市の宿泊施設など広域での対応にもつながる」と指摘。県の動きを受け、同市も地元宿泊団体と避難者の受け入れ協定を結ぶ検討に入った。
 避難所での飛沫(ひまつ)感染を防ごうと、同市は段ボール製の間仕切り200個とベッド400個の導入も決めた。6月中旬には7カ所の公民館に配備するという。
 噴火災害当時、避難所で生活した市民からは「床が硬くて寝られなかった。プライバシーもない」といった声も聞かれる中、市市民安全課の中川正秀課長は「間仕切りはプライベートスペース確保にもなる。ベッドは椅子の代わりにも使え、疲れ軽減も図れる」と快適性向上にも期待する。
 避難所の不足で、災害危険箇所の住民が避難できない状況を危惧する山口大大学院の瀧本浩一准教授(防災とまちづくり専門)は「市民に求められるのはハザードマップの確認。災害の種類に応じ、本当に避難が必要なのか自ら考えることが大事」と呼び掛ける。

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 43人が犠牲となった雲仙・普賢岳大火砕流から6月3日で29年。歳月の経過とともに記憶の風化も進む。被災地の現状を見つめ、今後の課題を考える。

 


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