「泳げないカバ」地域に愛され26年 伊藤副園長振り返る 長崎バイオパーク

「モモ」と声を掛け、スイカを与える伊藤副園長=西海市、長崎バイオパーク

 26年前、長崎バイオパーク(長崎県西海市西彼町)で生まれたカバ「モモ」。日本で初めて人工哺育された陸育ちで、「泳げないカバ」として注目を集めた。「カバは子であり、友達であり、師であり、いろんなことを教えてもらった」と語る副園長の伊藤雅男さん(58)にモモとの歩みを振り返ってもらった。

 伊藤さんは東京出身。高校生のころ、上野動物園でボランティアをしていた。当時、動物のことを教わったのは、のちに東武動物公園(埼玉)の「カバ園長」としてテレビに出演した西山登志雄さん。生態を熱っぽく語る西山さんに「洗脳された」と回想する。
 1983年、バイオパークの飼育員に。モモは94年3月6日生まれ。カバは通常、水中で出産し、水中で授乳するが、陸上にいて仮死状態だった。伊藤さんが風呂に入れ体を温めた。しかし、母親はモモに関心を示さず、国内で成功例がなかった人工哺育で育てる日々が始まった。近くの牧場から牛の乳をもらい、子牛用の2リットル哺乳瓶で与えた。
 生後2カ月。「この子は泳げるのか?」と不安がよぎった。案の定、池に入れると鼻から水を吸い怖がった。「泳げないカバ」。人間と一緒に泳ぎの特訓をする姿が報じられ、園は全国に知られるようになった。
 モモは2000年、西山さんが園長を務める東武動物公園から婿入りしたムーと結婚。西山さんも“結婚式”に出席し盛大に祝った。翌年、第1子を出産。人工哺育のモモに「不安もあった」が、水中で産み、水中で授乳した。「どこで“育児書”を読んだんだろう」。涙でカメラのシャッターが切れなかった。

 モモの子は5頭。北海道や鹿児島、中国の動物園に旅立った。「園の一番人気はカピバラ。でも、お客さんが名前を呼ぶのはモモぐらい」。ヒトの年齢にすると52歳になった。農家から「傷物だけど」とスイカやキャベツを譲ってもらい、豆腐店はおからを分けてくれる。人工哺育のミルクも、地元の好意だった。「これが大都市の動物園だったら、モモの命は救えなかったかもしれない。地域に愛され、カバにとっては最高の場所」と感謝を述べた。


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