ポスト・コロナの世界と日本の国防|山際澄夫【左折禁止!】 「日本政府の肝っ玉はネズミより小さい」(李登輝)。日本政府はどこまで中国に遠慮すれば気がすむのか。米国の圧倒的な軍事力と経済力に日本はいつまで依存するのか。「米中関係の守護者」であるヘンリー・キッシンジャーの論考から、ポスト・コロナの世界を読み解く!日本にとってポスト・コロナの世界新秩序は、自由も法の支配もない大国が覇権を握る暗い時代かもしれない――。

世界秩序を永遠に変えるパンデミック

ニューヨーク在住の元米国務長官、ヘンリー・キッシンジャーがこのほど、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に、新型コロナウイルスの感染拡大について寄稿した。

タイトルは「新型コロナウイルスのパンデミックは世界秩序を永遠に変える」である。

「新型コロナウイルスのシュールな現状は、私が第84歩兵師団に所属していたときのバルジの戦いでいつも感じていたことを思い起こさせる。(違っているのは)バルジの戦いの時のように特定の人を狙うのではなく、無作為で破壊的な脅威を感じる」

そのうえで、「人間の健康への危機は一時的なものになるだろうが、政治的、経済的激変は何世代にもわたって続く可能性がある。何より自由主義の世界秩序が脅威を受ける」と指摘し、第2次大戦後の欧州復興のマーシャルプランや原爆製造のマンハッタン計画を参考に、治療方法の開発や、世界の経済再建に迅速に取り組む必要があるとして、米国がその先頭に立つように求めた。

もしこれに失敗すれば、「世界に火が付く」という。米中和解を演出した96歳のグローバリストにしてみれば、トランプ大統領の自国優先、また新型コロナウイルスをめぐる米中関係の悪化に思い余っての訴えだったのかもしれない。

ここには中国の果たす役割は描かれてはいないが、「米中関係の守護者」の念頭にあるのは、やはり米国と中国の協力だろうか。

ポスト・コロナの世界秩序がどのような姿になるのかは、この先、新型コロナウイルスの感染拡大がどう展開するかが鍵とならざるを得ない。

感染拡大の封じ込めに成功したと中国が主張するなか、欧米諸国は病院の廊下にまで患者を寝かせて満足な治療ができないでいる。他方、中国は感染拡大阻止に対する中国の貢献に感謝しろと触れ回り、感染拡大に苦しむ国にマスクや人工呼吸器などの医療物資、また医者など専門家を派遣している。

これが世界新秩序を睨んでのことであるのは疑いない。世界の勢力図を塗り替えようと手を差し伸べているのである。

米国が“超大国”ではなくなる日

自らの責任を認めようともせず、世界の危機を利用しようとする中国に対して、トランプ大統領は、新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼ぶなど苛立ちを強めているが、医療物資を受ける国には米国など西側諸国も入っている。

新型コロナウイルスとの戦いは、米軍の抑止力にも大きな影響を与えている。米国は、保有空母のうちセオドア・ルーズベルトとロナルド・レーガンの船内でコロナウイルスの集団感染が発生し、断末魔の様相を見せた。

(初出:月刊『Hanada』2020年6月号)

山際澄夫

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