上場企業「新型コロナウイルス影響」調査 (6月3日時点)

 新型コロナに伴う緊急事態宣言は全面解除されたが、まだ予断を許さない状況が続いている。
 6月3日、「コロナ関連破たん」が200件を超えた。インバウンド消失や消費の減退が直撃したBtoC関連を中心に、幅広い業種や地域に影響が広がり、上場企業も東証1部レナウンが民事再生開始決定を受けた。企業業績への影響は、小・零細企業から上場企業まで深刻さを増している。
 5月20日までに、新型コロナの影響や対応などを情報開示した上場企業は3,330社に達した。これは全上場企業3,789社の87.8%を占める。業績の下方修正を発表した813社のマイナス分は合計で、売上高が5兆9,964億円と約6兆円、利益も3兆9,223億円と約4兆円に、それぞれ迫った。
 また、業績を下方修正した813社のうち、赤字は222社で、4分の1以上を占めた。赤字額の合計は1兆6,860億円に達し、新型コロナが利益の大幅な押し下げ要因となっている。
  2020年3月期決算は2,406社のうち、2,320社(96.4%)が決算短信を発表した。減益が約6割(58.7%)を占め、利益ダウンが際立つ。また、次期(2021年3月期)の業績予想を「未定」とした企業も約6割(59.2%)に達し、流動的で見通しの立たない経済情勢を反映している。

  • ※本調査は、2020年1月23日から全上場企業の適時開示、HP上の「お知らせ」等を集計した。
  • ※ 「影響はない」、「影響は軽微」など、業績に影響のない企業は除外した。また、「新型コロナウイルス」の字句記載はあっても、直接的な影響を受けていないことを開示したケースも除外した。前回発表は5月28日(5月27日時点)。

日産自動車 利益の下方修正額はワーストの7,362億円

 情報開示した3,330社のうち、決算短信や月次売上報告、業績予想の修正などで新型コロナによる業績の下振れ影響に言及したのは1,431社だった。一方、「影響の懸念がある」、「影響を精査中」、「影響確定は困難で織り込んでいない」などの開示は1,237社だった。
 下振れ影響を公表した1,431社のうち、813社が売上高や利益の減少などの業績予想、従来予想と実績との差異などで業績を下方修正した。業績の下方修正額のマイナスは合計で、売上高が5兆9,964億円、最終利益が3兆9,223億円に達した。業績下方修正額は、前回調査時(5月28日時点)は売上高が5兆5,572億円、最終利益が3兆3,149億円のマイナスだった。

 5月28日、注目された日産自動車(東証1部)が2020年3月期決算を発表した。
 日産自動車は、新型コロナ感染拡大を主な要因として収益が悪化、4月28日には当期純利益が1,500億円から 1,600 億円程度ダウンする可能性があると公表していた。決算発表と同日、前回業績予想と実績値との差異を発表し、連結売上高は前回予想を3,211億円下回り、利益も事業用資産の減損損失を特別損失として計上したことなどで、前回予想を7,362億円引き下げ、6,712億円の最終赤字に転落した。
 日産自動車の利益下方修正額は、これまで最大だった丸紅(利益▲3,900億円)のほぼ2倍で、断トツの規模となった。
 また、決算発表では複数の金融機関との間で総額7,125億円の資金調達を実行したことも明らかにした。資金調達額は、トヨタ自動車(1兆2,500億円)、ANAホールディングス(9,500億円)に次ぐ3番目の規模で、長期化の様相をみせる新型コロナ対策として、キャッシュポジションを高め、構造改革に取り組む姿勢を打ち出した。

業績下方修正額の推移0603

プラスの影響ありは165社、うち23社が業績を上方修正

 新型コロナによって、プラスの影響が生じたと公表した企業は、「その他」の949社のうち、165社(構成比17.3%)だった。
 内食需要の高まりで食品の売上が伸長したスーパーや、マスクや防護服の引き合いが増加した製造業、テレワークの浸透でウェブ会議ツールやセキュリティシステムの需要が続いている情報通信業など、好影響を受けた企業は多岐にわたる。
 「プラス影響あり」と公表した165社のなかで、業績予想を上方修正したのは23社(構成比13.9%)だった。
 手芸用品などを小売販売する藤久(東証1部)は6月3日、「手作りマスクの需要が増加するなど、マスク関連商材及びミシンの売上が大幅に増加」し、店舗の休業や時短営業による減収より特需による増収が上回る見込みになったため、業績予想を上方修正(売上高+32億1,100万円、利益+17億2,800万円)した。

2020年3月期決算は2,320社(96.4%)が公表、「減収減益」が最多の37.3%

【2020年3月期決算】
 6月3日までに2020年3月期決算の上場企業2,320社(3月期決算の上場企業の96.4%)が決算短信を公表した。決算作業や監査業務の遅延などを理由に86社が未公表となっている。
 決算発表した2,320社のうち、最多は「減収減益」で867社(構成比37.3%)。次いで、「増収増益」が686社(同29.5%)だった。
 増収企業(1,181社、50.9%)と減収企業(1,139社、49.1%)は拮抗したが、利益面では減益企業(1,362社、58.7%)が増益企業(958社、41.3%)を17.4ポイント上回った。人件費などコストアップに加え新型コロナの影響を受け、減損や繰延税金資産の取り崩しによる損失計上で、利益ダウンの傾向が強まった。

【2021年3月期決算見通し】
 次期(2021年3月期)の業績予想は、2,320社のうち、約6割の1,375社(構成比59.2%)が、「未定」として開示していない。経済環境の激変で業績予想の見通しが立たず、算定が困難としている。一方、次期の業績予想を開示した945社のうち、最多は「減収減益」の353社(同37.3%)で、厳しい収益環境を予想している。

2021年3月期 業績予想

新型コロナの影響を要因としたGC・重要事象企業が25社

 2020年3月期決算を発表した上場企業が9割を超えるなか、業績の悪化などにより決算短信に「継続企業の前提に関する注記」(GC注記)や、GCに至らないまでも「継続企業の前提に関する重要事象」(以下、重要事象)を記載するケースが相次いでいる。
 6月3日までに決算短信を発表した企業のうち、GC注記や、重要事象の要因として新型コロナウイルスの影響を挙げた企業が25社(GC9社、重要事象16社)確認された。前回、同様の集計を実施した5月20日時点では15社(GC7社、重要事象8社)だったが、さらに10社増加した。
 最も多いのが、営業自粛や営業時間の短縮により来店客数の減少に見舞われた飲食業者で、9社(構成比36.0%)だった。このほかアパレル・服飾雑貨販売(4社)、旅行・宿泊関連の事業を手掛ける企業などが目立ち、インバウンド消失、外出自粛による売上減少など、新型コロナによって販売機会を失った業種を中心に業績への悪影響が深刻化している。

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